コーヒーやカフェインの摂取が中高年世代の認知症のリスクを低下させるという科学的な証拠が得られたと、新潟大学の研究グループが明らかにした。コーヒーを1日3カップ以上飲むグループの認知症リスクは、まったく飲まないグループの約半分だったという。研究グループはこれまで裏付けが十分でなかったコーヒーなどの認知症予防効果に関する「強固なエビデンス」が得られたとしている。
研究を行ったのは、新潟大学大学院医歯学総合研究科・環境予防医学分野の中村和利教授ら。新潟県村上市などで行われている健康に関する長期的な追跡調査「村上コホート研究」の協力者で40~74歳の1万4364人のうち、すでに要介護認定を受けている人などを除いた1万3757人に関する情報を解析。コーヒーなどの摂取量を食事・嗜好品項目から算出した。
今回の研究では厚生労働省が目安としている「認知症高齢者の日常生活自立度」のランクIIa以上の症状を認知症(要介護認知症)ありと判断した。IIaは「日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる」という状態が家庭の外で見られる段階を指している。
分析対象者をコーヒー、緑茶、カフェインの摂取量に応じて5つのグループに分け、摂取量が最も少ないグループを基準に他のグループのリスクを相対値(ハザード比)として算出。ハザード比の算出では性別、年齢、婚姻状況など個人的な要素の影響を考えて統計学的に調整した。
分析結果によると、コーヒーの摂取量が多いほど認知症の発生率が下がり、摂取量が最も多い1日3カップ以上飲むグループの発生率は飲まないグループの0.53倍だった。すべての年代で同じ傾向が見られたが、性別で比較すると女性より男性で効果が顕著だった。
カフェインについても同様の結果が得られ、摂取量が多いほど認知症の発生率が低下していた。摂取量が1日あたり449ミリグラム(中央値)で最も多かったグループの認知症発生率は、1日あたり58ミリグラム(同)で摂取量が最小のグループの0.65倍だった。
緑茶でも摂取量が多いほど発生率が低下していたが、統計学的には確かな低下と言えるものではなかったとしている。
ただ、カフェインを含むコーヒーに認知症予防効果のあることが示唆される今回の結果には注意点もある。中村教授らは論文で「今回の研究は観察研究であり、(因果関係が想定される要因を取り除いた)介入試験ではありません」として、ほかの要因が認知症の発生率低下に影響している可能性を指摘している。
例えば、コーヒー好きの人特有の行動が真の予防原因であったり、症状が出る前から認知症の一種・アルツハイマー病の原因と見られているタンパク質「アミロイドベータ」が脳に蓄積して、コーヒーを飲まなくなるなどの変化が起きていたりすることも考えられるという。こうした実験の「限界」については、より長期の観察を続けることで克服できるとしている。