国土交通省が26日、鉄道運賃制度の見直しに関する交通政策審議会小委員会で示した中間まとめ案で、地元の同意を前提に事業者が値上げできる「協議運賃制」の導入を盛り込んだ。地方鉄道の運営が厳しい中で「地域の足」の持続性確保に向け、地元の実情に合った機動的な運賃設定を可能にするのが狙いの一つだ。ただ、値上げは住民からの反発が予想され、専門家は「さらに地元が責任を持って主体的に関与することを促す仕組みが必要」と訴える。
協議運賃制では値上げにあたり、事業者が路線維持や運行本数の増加など利便性向上につながることを地元自治体や住民に説明し、同意を得る必要がある。現行制度でも国の運輸審議会が開く公聴会などで利用者らが意見を述べる機会はあるが、国交省は「地域の中で(決定を)尊重できる仕組みが必要」と地元の関与をより強めたい考えだ。
地方の公共交通に関する事業者と自治体の協議を巡っては、移動手段の維持確保に向けた議論を促す場として、平成19年の「地域公共交通活性化再生法」に基づく法定協議会の枠組みがある。協議会で策定された計画などは予算上の特例措置も受けられるが、鉄道分野での利用が進んでいないという。理由には鉄道の存廃論議を嫌う自治体の後ろ向きな姿勢も挙げられる。
別の有識者会議が25日にまとめた地方鉄道の再構築に関する提言では、ローカル線の存廃について自治体などに「自分事」として強い危機感を持って臨むよう要請。同提言を受け、斉藤鉄夫国交相も「このまま何もしなければ持続可能な公共交通が破綻するのは目に見えている」と述べた。
ただ、存廃論議まで行かずとも自治体の反応は厳しい。近畿日本鉄道が経営悪化を理由に、来年4月の普通運賃の値上げ改定を国交相に申請した。営業距離は長大で沿線人口が少なく、老朽化車両の大幅更新も避けられない中、奈良県の荒井正吾知事は「サービス改善なしに負担だけを求めるのか」と猛反発した。
鉄道改革に詳しい東洋大の黒崎文雄教授によると、欧州では地方鉄道を地元の問題として、自治体が競合する交通機関の運行を規制するなど、計画に基づいて対応しているという。日本は自由参入である上、バスは道路使用料が不要な一方、鉄道は線路の維持負担を強いられるなど、交通政策に一貫性が欠けていると指摘。「地元が当事者意識を持って持続性のある地域の交通計画を策定し、それに対して国が予算を付けるべきだ」と地元主導の仕組み強化を訴えている。
(福田涼太郎)