将棋の藤井聡太棋聖(19)=竜王など五冠=が17日、名古屋市で指された第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負の第4局で永瀬拓矢王座(29)を下し、対戦成績3勝1敗でタイトルを防衛、3連覇を果たした。師匠の杉本昌隆八段(53)がサンケイスポーツに手記を寄せ、2度の「千日手」を経て敗れた第1局が「勝負のターニングポイント」と指摘した。まな弟子を巡る地元愛知ならではのエピソードを明かし、19日の誕生日に向けて温かいメッセージを送った。
苦しみながらも果たした3連覇。心よりおめでとうと言いたいです。今年度の藤井棋聖は防衛戦が増えたため対局数が少なく、実戦不足で調子を落としていました。最もいい時の状態から考えると7割ぐらいの出来ではないかと思います。最も苦しいタイトル戦だったかもしれません。
第1局は完敗でした。「千日手」が2度続く異例の展開に、永瀬王座の棋聖戦にかける思いを見ました。2人は約5年前から研究会を続けていますが、研究会で意識的に千日手に持ち込むことはありません。タイトル戦での藤井戦本番にとっておいた秘策でした。
藤井棋聖は敗れはしましたが、千日手による指し直しで計3局指せたことで実戦不足を補えました。勝負勘を取り戻せたことが大きかった。また、永瀬王座の〝本気〟を見られたことは精神面でも得たものが大きかったはず。第1局の千日手こそ、勝負のターニングポイントでした。
将棋は2人で作り上げる芸術。以降も両者力の入った熱戦で、互いに良く知る間柄だからこその名局が続きました。藤井棋聖はもがき苦しんで、また一歩成長したと思います。
念願の地元愛知でのタイトル防衛にもなりました。第4局が指された名古屋・大須地区はパソコンショップが多く、藤井棋聖も関心がある街のはず。昨年、私が研究用のパソコンを新しくしようと探した際にも、藤井棋聖と大須の商店街の話になりました。私一人で商店街へパソコンを買いに行き、私のことなど知るよしもない店員さんから「お客さま、これを購入されれば藤井プロの気分になれますよ」と言われてしまいましたが…。
19日に藤井棋聖は二十歳となります。小学4年の弟子入りから10年。もう二十歳、そしてやっと二十歳。彼の人生は、普通の人より時計の針が早いような気がします。プロになった14歳がひとつの成人で、初タイトルの棋聖位を取った17歳で既に一流の仲間入りをしています。今まで通り、勝負の道を究めてくれることを願っています。