書評

『日本書紀の鳥』山岸哲・宮澤豊穂著 斑鳩に新説 政治的意味も

産経ニュース
『日本書紀の鳥』
『日本書紀の鳥』

今の私たちにとって鳥は身近な存在だろうか。都会でもスズメ、カラス、ハトは見かけるし、春先に花の蜜を吸いに来るメジロのつがいや、初夏にツバメの子育てを楽しみにごらんになる方もいらっしゃるだろう。

『日本書紀』は今からおよそ1300年前の奈良時代に成立した日本に伝存する最古の国家史書である。その中にはなんと34種類(専門用語では34分類群)もの鳥が登場する。最も多く描かれているのはハクチョウ。次いでニワトリ。その他、スズメ、キジ、カラス、ミソサザイ、オウム、トキ、クジャクなど。想像上の鳥である朱雀(すざく)と鳳凰(ほうおう)はここには含まれない。

本書の著者の一人は山階鳥類研究所の元所長、山岸哲さん。コウノトリやトキの野生復帰に尽力したことで知られる鳥類研究の第一人者である。共著の宮澤豊穂さんは長野県の中学校教諭として長年勤務する傍ら『日本書紀』の全訳に取り組み、平成21年上梓(じょうし)した。本書は文系理系の垣根を越えて、古代人と鳥の関わりを探った一冊である。

たとえば聖徳太子ゆかりの地である斑鳩はなぜ「マダラバト」と書いて「いかるが」と読むのだろう。地名として「伊柯屢餓(いかるが)」は確かに存在しており、「鵤」という漢字表記もあるものの、『日本書紀』には6カ所で「斑鳩」が認められる。この地にアトリ科のイカルという鳥が多くいたことが地名の由来なのか。それとも帰化人が半島から連れてきた「珠頸斑鳩(ジュズカケマダラバト)」から転じているのか。斑鳩の地名の謎に新たな一説が加わる。

さらに興味深いのは、鳥という観点から見た『日本書紀』と『万葉集』の比較である。同時代の書物で、共に鳥は多く登場するのに、その種類がまるで異なる。『日本書紀』で最多のハクチョウは日本武尊(やまとたけるのみこと)の霊魂が化した説話で有名だが、『万葉集』ではほぼランキング外の扱い。

一方『万葉集』でよく詠まれ、鳴き声も特徴的なホトトギスやウグイスが『日本書紀』には全く登場しない。ここから両書物の本質的な違い、さらには『日本書紀』の鳥に込められた政治的な意味合いが浮き彫りになる。古代人の熱い思いを知るにつけ、現代人の鳥へのまなざしが希薄なことに気づかされる。(京都大学学術出版会・2420円)

評・青木奈緒(文筆家)

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