安倍晋三元首相が街頭演説中に銃撃され、死亡したニュースは一斉に世界を駆け巡った。国際社会でも存在感を示した安倍氏を悼む声が上がると同時に、日本ではまれな銃暴力の標的とされたことに「言論の自由への攻撃」などとの動揺も広がった。
安倍氏への銃撃は発生直後から世界各地のメディアが速報した。安倍氏の死去が伝えられると、米紙ウォールストリート・ジャーナルは「日本の元首相の安倍晋三氏が暗殺された」と報道。安倍氏について「1990年代に停滞し始めた日本の経済力・軍事力の復活を唱えた」とし、「国防力を強化した不屈のリーダー」と評した。
長期政権を担った安倍氏と親交を持った世界の指導者らは数多い。オバマ元米大統領は在任中の2016年に安倍氏と一緒に被爆地・広島、旧日本軍が攻撃したハワイ・真珠湾を訪問した「経験を忘れない」とツイッターで表明。第1次安倍政権時代を知るブッシュ(子)元米大統領は「慎み深く思いやりのある人。安倍氏は自身の国に奉仕し続けることを望んだ愛国者だった」と声明を発表した。
ドイツのメルケル前首相は安倍氏について「彼の言葉は重く、決断は信頼できた。彼は親密な同僚であり、友人だった」との声明を出した。トルコのエルドアン大統領は「親愛なる友人を失って深い悲しみに沈んでいる」とした。
銃を用いた政治的暴力には強い非難が上がった。韓国の与党「国民の力」の報道官は参院選の街頭演説中の凶行に「民主主義の祭典であるべき選挙をテロで染める行為は決して容認できない蛮行」と批判。ウクライナのゼレンスキー大統領は「残忍な暗殺事件。この憎むべき暴力行為にはいかなる口実もつけられない」とツイッターで表明した。
フランス国営テレビは安倍氏について「自民党支持者に根強い人気があり、参院選の選挙運動で重要な役割があった」と伝えると同時に、「日本で銃撃事件が起きるのはまれだ」と報じた。米主要メディアも、銃乱射事件が多発する米国とは異なり、日本における事件の異質ぶりを強調した。
英BBC放送(電子版)は8日、「日本では銃を所有することは極めて困難」であり、「著名な人物が銃撃されたことは、安全な国であることを自負している日本にとって非常にショッキング」と伝えた。
英国では昨年10月、英与党・保守党の下院議員が地元選挙区で有権者との対話集会中に刺殺される事件が起きた。安倍氏に対する銃撃を受け、ある英元下院議員は産経新聞に対し、「演説中の政治家への攻撃は民主主義、言論の自由への悪質な攻撃だ」とし、日本でも今後、政治家と有権者が接触する際に「政治家の安全をどう守るかが議論されるだろう」との見方を示した。(ニューヨーク 平田雄介、ワシントン 渡辺浩生、ソウル 桜井紀雄、カイロ 佐藤貴生、パリ 三井美奈、ロンドン 板東和正)