保育園や幼稚園などに通っていない「無園児」を抱える親たちが、孤独な子育てに陥っている。保育園に入園したくても「利用要件」や「保活」などのハードルに阻まれて支援を得られず、家庭内で孤立を深めていくケースも少なくない。専門家からは必要とするすべての子供と親のために、保育の拡充を求める声が上がっている。(三宅陽子)
東京都内で5歳の長女と4歳の双子を育てる高濱沙紀さん(30)=高は「はしご高」=も、孤独な子育てに陥った一人だ。
長女を授かった当時、出産後の職場復帰を考えていたが、保育園はすべて落選。勤めていた会社からは「育休は取らないでほしい」と遠まわしに言われ、退職を余儀なくされた。
専業主婦として子育てに奮闘していた頃、双子を授かった。夫婦だけではとても子育てを回していけない…。再び保活を始めた。少しでも保育園に入りやすい地域を探して引っ越しもしたが、預け先の確保は困難を極めた。
幼子3人の自宅保育は想像以上に過酷だった。夫も手伝ってくれていたが、昼夜を問わず子育てに明け暮れ、睡眠時間は細切れで1日1~3時間ほど。同時に泣く子供たちと一緒に泣き続けたこともある。
「このままでは、家族が崩壊してしまう」。電話で泣きながら、自治体の保健師に伝えた。
保育園に入園できたのは平成31年4月。子供たち3人は元気に通い、自分も会社員として働くことができている。
孤独な子育てに奮闘した約2年3カ月。「ボタンが一つ掛け違っていれば、私も虐待死事件の母親となっていたかもしれない。わが家を救ってくれたのは間違いなく、保育園だった」。高濱さんは振り返る。
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こうした声は氷山の一角とみられる。子育て支援を行う認定NPO法人「フローレンス」(東京)などが3月に行った調査では、その一端が明らかになった。
調査は、第1子が未就学児の保護者2千人を対象に実施。「子育ての中で孤独を感じる」としたのは、定期保育サービスを利用する保護者が33・2%だったのに対し、保育園や幼稚園などを利用していない「無園児」を持つ保護者は43・8%と10ポイント程度も高かった。
また、子育ての中で孤独を感じている家庭の約7割が定期保育サービスを「利用したい」とも回答。「手をあげてしまいそうなことがある」「怒鳴ってしまうことがある」といった子供への虐待リスクを抱える家庭ほど、利用を望む傾向が高かった。
一方、保育園は親の就労などの理由で「保育の必要性」が認められなければ入園できず、保護者は多大な苦労を伴って保活をせざるを得ない状況も存在する。入園をあきらめた家庭の親が自宅保育で孤立を深めてしまうケースも多いとされ、過度なストレスにさらされ続ければ子供への虐待リスクが高まる恐れも指摘される。
フローレンスは国の統計などを基に、全国の無園児を約145万人と推計している。駒崎弘樹代表理事は「週1~2回でも保育園を利用できれば、保育士が家庭内の虐待リスクや異変に気付くことができ、早期の支援につなげることができる」と指摘。「保育を必要とするすべての子供と親のセーフティーネットとして、保育園の間口を広げていくべきだ」と訴える。
国内では少子化が加速しており、地域によってはすでに定員割れを起こす保育園も出てきている状況だ。フローレンスは全国の保育園などにはすでに約46万人分の「空き」があると試算。無園児の受け入れ先として、活用していくことも提案している。