山形県の月山(がっさん)のふもと、西川町に官僚出身の若手町長が生まれた。町出身の菅野大志(かんの・だいし)さん(43)。国会議員や知事に官僚出身は多いが、町村長は珍しい。金融庁や内閣官房で勤務し、前職は政府の地域活性化策「デジタル田園都市国家構想」事務局。官僚時代の経験と志を胸に、人口減少に悩むふるさとのかじ取りに乗り出した。
ダブルスコアで初当選
西川町は、修験道と夏スキーで知られる月山のふもと、最上川の支流沿いに広がる4848人の町だ。特別豪雪地帯に指定され、特産品は山菜ときのこ。
4月17日に行われた町長選で、菅野さんは新人同士の一騎打ちを制し初当選した。得票数は町の人口の半分に当たる2493票。対抗馬の元連合山形会長とダブルスコアだった。
官僚出身の国会議員は数知れず、知事は全47都道府県中、半数以上を占める。だが、全国町村会によると全国926町村で、官僚出身の町村長は珍しい。
「これまで国の仕事で身につけた地域活性化への経験、アイデア、人脈をフル活用していきたい」
官僚時代の経験には「肩書を外す」「DX」「関係人口」という、地域づくりにとって大切な3つのエッセンスが詰まっていた。
肩書を外し、地域へ
菅野さんは平成13年、財務省東北財務局入局。いわゆるノンキャリアの国家公務員として、地銀の監督業務に携わったり、霞が関の金融庁へ出向してメガバンクを担当したりした。
転機は23年の東日本大震災。被災した企業や個人の「二重ローン」問題の支援に関わった。「それまでの銀行とのやり取りだけでなく、現場の生の声を聞くことが政策を打つ上で大切だと知った」という。
現場志向は28年、利用者減に悩んでいたローカル鉄道、阿武隈急行と沿線の活性化を考える産学官金団体の事務局を務めたことで強まった。沿線産のハチミツを使った地ビールをクラウドファンディングで作ろうというアイデアが生まれたが、役人としての自分の仕事は、検討結果を報告書にまとめるところまで。
総務課長に「ここから先は、やっちゃいけないですよね」と相談したら、上司はこう答えた。
「土日なら、いいんじゃない。ボランティアなら」
同じころ、小さなきっかけから全国の若手公務員の親睦会「よんなな会」へ参加。休日に名刺の「肩書」を外して地域へ飛び出す公務員たちの存在を知った。
「《東北財務局総務課企画係長》でなく、単に『財務局の人』くらいの感覚で地域に入っていく。そうした肩書を外してのつながりこそが、地域活性化のさまざまなイノベーションを生む苗床になると気づいた」
30年、再び金融庁へ。地域課題解決支援チームのリーダーとして、地域金融機関と公務員の有志が休日に交流する「ちいきん会」を主宰した。フェイスブックのメンバーは2500人。会は今年、一般社団法人となり、交流からさまざまな地方創生事業が生まれた。