法廷から

新生児取り違え 親捜し阻んだ行政の「言い分」

産経ニュース
黒塗りされた戸籍受附帳=東京都千代田区(鴨志田拓海撮影)
黒塗りされた戸籍受附帳=東京都千代田区(鴨志田拓海撮影)

本当の親に会いたい-。そんな思いを抱きながら、波乱の半生を歩んできた男性がいる。生まれた直後に誤って他の新生児と取り違えられ、40代で初めて親と血が繋がっていないことを知った。「生みの親」を探し続けたが、立ちはだかったのは個人情報保護の壁。「自分のルーツが知りたい」。行政を相手取り調査の実施などを求めて裁判を起こした男性が産経新聞の取材に応じ、思いを語った。

14歳で家出

「お前、誰にも顔似てないな」。江蔵智(えぐら・さとし)さん(64)=東京都足立区=は幼いころ、盆や正月に親戚が集まると、決まってこうからかわれたという。

自分と両親の顔立ちが違うとは感じていた。「親と似ていない子供なんて、いくらでもいる」。気にしないように努めていたが、疎外感は付きまとった。

母親との関係は悪くなかったが、都電の運転手だった寡黙な父とは会話が乏しく、酒が入った際に暴力を振るわれたことも。「早く大人になりたい」と14歳で家を出て、浅草のクリーニング店に住み込みで働いた。中学にはほとんど通っていない。飲食店経営や輸入雑貨業、建築業など、職を転々とした。

「出自」に疑念が生じたのは平成9年。母が体調を崩したのを契機に両親とともに血液検査を受けた。それまで血液型は自分がA、父がO、母がAだと思っていたが、母がB型であることが判明した。通常、親がO型とB型なら、A型の子供は生まれない。

インタビューに応じる江蔵智さん=東京都千代田区(鴨志田拓海撮影)

「本当の親子でも自分のようなケースが起こり得るという新聞記事を読んだことがあり、深く考えないようにした」

だが7年後の16年、かかりつけ医に何気なくその話をすると、話を伝え聞いた大学教授から「DNA型鑑定をさせてほしい」と申し出があった。結果は「あなたに両親の血は、一滴も流れていない」。逃れられない現実を突きつけられた。

個人情報の壁

考えられるのは昭和33年4月、東京都立墨田産院(墨田区)で生まれた際、他の新生児と取り違えられた可能性だけだった。当時はベビーラッシュ。母親に聞くと「産院自体がガチャガチャしていた。胎盤の処理もずさんで、ひどい臭いがした」と話した。

やり場のない悔しさとともに「本当の親に会ってみたい」という気持ちが芽生えた。ただ、産院はすでに閉院。都に調査を依頼しても「作り話はやめて」と門前払いされた。出生記録が記載されている墨田区の「戸籍受附帳」を情報公開請求したが、開示された書類は「個人情報保護」を理由に、ほぼ黒塗りだった。

育ての両親とともに平成16年10月、都に対し損害賠償を求める訴訟を起こした。1審で勝訴、2審でも「重大な過失で人生を狂わされた」として2千万円の賠償を命じる判決が出て、確定した。

全国尋ね歩き

裁判と並行し、地道な調査も続けた。区役所で住民基本台帳をめくり、生まれた日が近い人の情報を手書きでメモ。100人近くの人をピックアップし、時間を見つけては福岡から上京して訪ね歩いた。

だが、手がかりはなく、損賠請求訴訟の後、当初は調査に協力する姿勢をみせていた都も「賠償以外にできることはない」と、態度を一変させた。「このままでは終われない」。昨年11月、生みの親の調査などを求め、再び都を提訴した。

戸籍受附帳が全面開示されれば、大きな手がかりになる可能性が高い。都側はプライバシーの保護などを理由に請求の棄却を求め、係争中だ。

「自分の正しい情報を求めているだけ。間違ったのは都であり、間違ったら正しいものを渡すのが当たり前じゃないのか」

もし生みの親が判明しても、相手が望まないなら無理に会うつもりはない。生きていれば相当な高齢。すでに亡くなっているかもしれないと覚悟もしている。

それでも、父はどこで育ち、どんな仕事をしていたのか、母はどんな人か、兄弟はいるのか…。知りたいことはたくさんある。もし会えたなら、特に母親に一言、伝えたいことがある。「産んでくれてありがとう」(松崎翼)

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