劣等感にさいなまれた豊臣秀吉は、己の兄弟姉妹を惨殺する残酷な男だった

SankeiBiz

フロイス『日本史』第12章には、次のような興味深い記事がある。

一人の若者が、いずれも美々しく豪華な衣裳をまとった二、三十人の身分の高い武士を従えて、大坂の政庁(大坂城)に現れるという出来事があった。この若者は伊勢の国から来たのであり、関白(秀吉)の実の兄弟と自称し、同人を知る多くの人がそれを確信していた。

これは天正15年(1587)のことで、秀吉は51歳になっていた。この若者に関してはほかに史料がなく、実在したか否かですら判然としない。秀吉にとっては、驚天動地の心境だったに違いない。

秀吉はこの若者が実の兄弟であることを確認すべく、次のように母の大政所を問い詰めたという。

関白(秀吉)は、傲慢、尊大、否それ以上の軽蔑の念をこめて、自らの母(大政所)に対し、かの人物を息子として知っているかどうか、そして息子として認めるかどうかと問い質した。彼女(大政所)はその男を息子として認知することを恥じたので、デウスに対する恐れも抱かず、正義のなんたるやも知らぬ身とて、苛酷にも彼の申し立てを否定し、人非人的に、そのような者を生んだ覚えはないと言い渡した。

若者は秀吉と面会した際、兄弟であることを強くアピールし、何らかの要求(金銭や地位など)をしたのかもしれない。秀吉にとって、面倒なことだった。

大政所は高圧的な態度の秀吉に対して、「若者のことを知らない」と答えざるをえなかった。大政所も後ろめたいところがあり、何かと不都合なことがあったのであろう。

最近の研究によると、大政所には3回以上の結婚歴があったと指摘されている。大政所は生活を維持するために、男性を頼るのは止む得なかった。

秀吉が15歳で家を飛び出して以降、大政所は不特定な男性と関係を持ったのは確実だったという。一方、当時は現在のように戸籍がなかったので、証明のしようがなかったのも事実である。

大政所が知らないとなれば、若者は秀吉に虚偽を述べたことになる。その結果、若者には苛酷な運命が待ち受けていた。続けて、『日本史』を引用しよう。

その言葉(大政所が知らないと言ったこと)を言い終えるか終えないうちに、件の若者は従者ともども捕縛され、関白(秀吉)の面前で斬首され、それらの首は棒に刺され、都への街道筋に曝された。このように関白(秀吉)は己の肉親者や血族の者すら(己に不都合とあれば)許しはしなかったのである。

秀吉にとって、秀長ら以外に兄弟姉妹が存在することは「不都合な真実」である。この若者のように、秀吉の知らない者が兄弟姉妹だったということは、決してあってはならないことだった。

ましてや秀吉になんらかの要求(金銭や地位など)があったとするならば、許しがたかったに違いない。秀吉が若者を斬首して、首を晒すのは常套手段だった。以後、同様のことが起きないように、強く警告を発したのである。

無残な最期を遂げたのは、この若者だけではなかった。秀吉は先手を打って、他にも知られざる兄弟姉妹がないかを探索していた。その結果、秀吉に姉妹のいたことが判明したのだ。フロイス『日本史』には、次のように書かれている。

その(若者が殺されてから)後三、四ヵ月を経、関白(秀吉)は、尾張の国に他に(自分の)姉妹がいて、貧しい農民であるらしいことを耳にした。そこで彼は己の血統が賤しいことを打ち消そうとし、姉妹として認め(それ相応の)待遇をするからと言い、当人が望みもせぬのに彼女を都へ召喚するように命じた。

秀吉が姉妹の存在を偶然に知ったように記されているが、実際には執拗な探索を行ったのだろう。あるいは、大政所に心当たりを尋ねたのかもしれない。

「己の血統が賤しいことを打ち消そう」としたというのは、自分が知らない兄弟姉妹を根絶やしにすることを意味する。姉妹がどうなったのかは、次のとおりである。

その哀れな女は、使者の悪意と欺瞞に気が付かず、天からの良運と幸福が授けられたものと思いこみ、できるだけの準備をし、幾人かの身内の婦人たちに伴われて(都に)出向いた。(しかるに)その姉妹は、入京するやいなやただちに捕縛され、他の婦人たちもことごとく無惨にも斬首されてしまった。

この姉妹は、天下人の秀吉との面会が幸運をもたらすと有頂天になった。秀吉と面会するのにふさわしい服装を整え、来るべき輝かしい未来を信じて入洛したのだった。しかし、結果は史料にあるとおり無残なもので、おそらく首は晒しものにされたに違いない。

冒頭で記したように、秀吉には明るいイメージがあった。しかし、実際の秀吉はコンプレックスの塊で、非常に残酷な性格だった。猜疑心も非常に強かったと考えられる。私たちが持つ、これまでの明るくひょうきんな秀吉のイメージは改められなくてはならないだろう。

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