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木村さやか 言葉に表せない「痛み」とは

産経ニュース
式典で献花する子供たち=8日午前、大阪府池田市の大阪教育大付属池田小 (恵守乾撮影)
式典で献花する子供たち=8日午前、大阪府池田市の大阪教育大付属池田小 (恵守乾撮影)

毎年6月になると、思い出す言葉がある。

《親をなくした子供を孤児という。伴侶をなくした夫を寡夫、妻を寡婦という。

子供をなくした親を呼ぶ言葉はない。

その痛みを言葉で表すことはできないからだ。》

2004年9月、米・ニューヨークの中枢同時テロ追悼式典で、当時のブルームバーグ市長が述べた「追悼の言葉」。その3年前の平成13年6月に大阪教育大付属池田小学校(大阪府池田市)で起きた児童殺傷事件で、長女の酒井麻希さん=当時(7)=を失った父、肇さん(60)は、この言葉が「自分の思いにぴったりだ」と教えてくれた。以来、何度も読んでは反芻(はんすう)するうち、すっかり暗記してしまった。

私が取材に携わり始めたのは、事件から約1年半後のことだ。弊社の過去の取材や報道などが原因で、ほぼ全8遺族から取材拒否状態になっていたのを解消しようと結成された取材班に加えられた。あいさつに行っても名刺さえ受け取ってもらえない、という状況からのスタートだった。

肇さんはまず、「こちらの思いを聞いてほしい」と要望された。上司と2人、社内の小部屋で小一時間ほど面談し、指摘された問題などについては真摯(しんし)に謝罪した。謝ったところで、水に流してもらえるようなことではなかったが、取材には少しずつ応じてもらえるようになっていった。そんなやりとりから、20年近くになる。

妻の智恵さん(61)は事件後、夫婦とも弁護士として働く友人のアドバイスで、事件に関するあらゆる事柄を詳細に記録してきたという。事件から20年となった昨年、夫妻は改めて「池田小」「学校安全(文部科学省等)」「被害者支援(被害者支援、警察、司法他)」といった、対象ごとに取り組んだ内容を年表にまとめた。A4判8枚にびっしり書かれた記録からは、活動の幅の広さに加え、夫妻が一つ一つに真剣に向き合ってきた足跡がにじみ出ている。

子供のいない私に、「言葉で表すことはできない」というほどの痛みを心の底から理解することは、どんなに努力してもできないだろう。だが、少しでも近づきたい―と毎年、話を聞かせていただく。「思いは変わらない」という、その思いはどのようなものなのか。心のひだを探るような作業の中に、社会に発信すべきものがあると考えている。

この作業に近いと感じるのが、「誰かの靴を履く」という英語の表現だ。誰かを「かわいそう」と思う感情や友情とは異なり、相手の立場になって考える「エンパシー」を意味する。「共感」と訳されるが、内側から湧き出てくる情緒的、感情的なものではなく、他者の感情や経験などを理解する能力のことだ。

能力を獲得するには、身に付ける努力が必要だ。相手のことを100%理解することはできないと認識しながらも、諦めずに「理解したい」と努力し続けること。そんな積み重ねによって、少しずつでもエンパシーを磨くことができるのではないか、と思っている。

今月8日で、事件から21年。酒井さん夫妻が取材で、「もう20年以上前の事件のことを、まだ話していいのかな、という思いもある」と語ったのが印象に残った。智恵さんは文部科学省が始めた「学校安全指導者養成研修」の講師を務めて9年目。夫妻はメディアとの勉強会や、各社の研修会の講師も続けている。当時を振り返って話すのは「身を切るようなつらい作業」というが、それでも求めに応じ続けるのは、それが「麻希のためにしてやれる唯一のこと」だからだという。夫妻はこういう。

「一人一人の心に届けて、その人が感じ、行動すれば、社会は変わっていく。私たちが話すというのは、そういう役割なのかな、と思うんです」

事件を風化させず、教訓を生かすのは一人一人の行動だ。微力な私にも、何か役割がある、と思っている。(きむら さやか)

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