新聞に喝!

多様で複雑な歴史背景を解き明かす記事 同志社大教授・佐伯順子

産経ニュース
ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領。旧ソ連諸国のロシアに対する意識は多様で複雑きわまる(タス=共同)
ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領。旧ソ連諸国のロシアに対する意識は多様で複雑きわまる(タス=共同)

中央アジア・ウズベキスタンの古都、サマルカンドをかつて訪れた際、宿のテレビに、第二次大戦戦勝記念日の行事の映像が延々と流れていた。ウズベキスタンは旧ソ連を構成した共和国のひとつだ。その誇らしげな光景と、日本のメディアで毎年流れる8月15日の戦没者への弔いとの甚だしい落差に驚愕(きょうがく)した。

一方、フィンランドの首都ヘルシンキの書店で、日露戦争時の日本の軍艦を題名にしたカラー図書や、日本のサムライ紹介本が並んでいるのを見て驚いたこともある。日露戦争は、当の日本では教科書で習う歴史的過去だが、北欧諸国にとっては、今そこにある脅威に対抗する勇気をもらえる戦争の記憶であり、今回の事態をうけた北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請につながるのも納得できる。

しかし、ロシアにおける「戦争」の記憶は、ナチスへの勝利という輝かしい成功体験として、戦勝記念日のテレビ放送とともに毎年上書きされ続けているため、「戦争」への否定的認識を共有する西側の価値観との心性の溝はなかなか埋まらない。

ゆえに、外交交渉はいつまでも平行線になりがちで、今回の事態の打開策がみえにくいのであるが、ここ数カ月の関連報道は戦況の推移が目立ち、現在の国際情勢にいたる歴史的背景を考察する記事が手薄になりがちである。

その意味で、連載「南と北の島物語」(産経5月25日付)は国際連合の機能不全が指摘される現状につながる、地域間のコミュニケーション・ギャップを考える上で示唆的であった。南洋群島を日本が委任統治した際、日本では現地の実情に沿った統治を主張する新渡戸稲造に推されて柳田国男が国際連盟の委任統治委員に就任したが、柳田は各受任国の一方的な報告で、委員会のコントロールが及ばない現実に無力感を覚えたという。

また、ソ連時代の労働者蜂起に対する弾圧を描いたロシア映画『親愛なる同志たちへ』の、国内公開を黙認したプーチン露大統領の意図を探った「論説顧問 日曜に書く」(産経6月12日付)も、現ロシアの思想的背景の理解を助ける。

ウズベキスタンでは、独立を歓迎する声と、モスクワにパスポートなしで往来できたほうが至便というロシア系住民の意見が併存していたが、中央アジア地域は独自の宗教的背景もあり、旧ソ連諸国のロシアに対する意識は多様で複雑きわまる。戦況報道とともに、歴史や文化理解をウクライナ情勢の記事に生かすのも、ジャーナリストの腕の見せどころであろう。

【プロフィル】佐伯順子

さえき・じゅんこ 昭和36年、東京都生まれ。東京大大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。専門は比較文化。著書に「『色』と『愛』の比較文化史」など。

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