【ロンドン=板東和正】ロシアが天然ガスの供給を減らし、欧州諸国に揺さぶりをかける中、ドイツやオランダなどの欧州連合(EU)加盟国が二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力発電の稼働を増やす方針を示している。家庭の暖房需要が高まる冬に備え、ガス消費量を減らすための「苦肉の策」だが、EU諸国が脱炭素化に逆行する方針を決めたことで、気候変動対策の取り組みが後退する恐れがある。
ドイツのハーベック経済・気候保護相は19日、天然ガスの消費量を減らす代替策として、石炭火力発電の稼働を増やす緊急措置を講じる方針を表明した。ロイター通信によると、独政府は年内に休止予定だった石炭火力発電所の利用などを計画している。
露ガス大手ガスプロムは15日、海底パイプライン「ノルドストリーム」を通してドイツに送るガス輸送量が16日から通常の約6割減になると表明。ウクライナに兵器供与を進めるドイツへの対抗措置とみられる。ドイツはウクライナ侵攻前、天然ガスの5割超をロシアに頼っていた。
ショルツ独政権は2030年までに国内の石炭火力発電所を廃止する目標を掲げ、先進7カ国(G7)議長国として脱炭素を加盟国に促す立場にあるが、石炭火力に当面、頼らざるを得なくなった。
他のEU加盟国にも同様の動きが広がっており、オランダ政府は20日、脱炭素化のために実施していた石炭火力発電の利用制限を解除する方針を表明した。オランダはロシアが要求する通貨ルーブルでのガス代金支払いを拒否したため、ガスプロムはオランダへのガス供給を停止。冬にガス不足に陥る可能性があり、石炭火力の利用を増やす必要が生じた。露産資源の依存から脱却することで、「プーチン露大統領の軍に流れる資金を少なくする」(オランダのエネルギー政策相)狙いもある。
オーストリアも、停止中の予備のガス火力発電所を石炭火力に改造する方針で現地の電力会社と合意。イタリアは石炭火力の稼働率を上げるため、石炭を購入する方針を決めた。
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は英紙フィナンシャル・タイムズに「この危機を化石燃料に逆戻りする機会にしてはならない」と強調。再生可能エネルギーへの投資増額を訴えた。