論壇時評

7月号 戦争長期化によるNATO分断防げ 論説委員・岡部伸

産経ニュース
今月16日、ウクライナの首都キーウで会談した(左から)イタリアのドラギ首相、ドイツのショルツ首相、ウクライナのゼレンスキー大統領、フランスのマクロン大統領、ルーマニアのヨハニス大統領 (ロイター=共同)
今月16日、ウクライナの首都キーウで会談した(左から)イタリアのドラギ首相、ドイツのショルツ首相、ウクライナのゼレンスキー大統領、フランスのマクロン大統領、ルーマニアのヨハニス大統領 (ロイター=共同)

ロシアによるウクライナ侵攻の長期化で、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国間で、「戦争終結」の出口戦略を巡って早期に停戦を探る和平派と、ウクライナの徹底抗戦を支持する主戦派に分かれ、結束に綻(ほころ)びが生じている。日本は、どうするべきだろうか。

欧米では2月以降、先進7カ国(G7)を中心にウクライナ支援と対露制裁で足並みを揃(そろ)えてきた。しかし、ウクライナ東部で露軍が攻勢を強め、戦況が膠着(こうちゃく)すると、仏独伊の欧州連合(EU)主要国が和平派として「交渉を通じた停戦」を目指しプーチン露大統領と対話を再開した。マクロン仏大統領が「ロシアに屈辱を与えるべきではない」と発言すると、「ロシアに大きな代償を払わせるため戦争を続けるべきだ」と米英、ポーランド、バルト三国など主戦派が一斉に反発した。

「世界は第三次大戦の縁に立っている」「分別ある人々は今、真剣に和平への道を模索し、協議し始めなければなりません」。フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッドは、『中央公論』で提言する。

難民流出し、露産石油とガス依存を見直し、対露投資を放棄したことに伴う損失などで、欧州は疲弊しているためと説く。

「欧州が戦争の長期化を避け、戦争拡大の危険を取り除く義務がある」と言い切り、「フランスとドイツ、そして欧州の地ではないが価値観を共有する日本の役割が重要だ」と指摘。仏独日は、第三次大戦を阻む決意をしたなら、「米国の主導するウクライナ支援とは一線を画し、和平に向けて全力で行動を起こすべき」と訴え、仏独に、「直ちにウクライナ軍事支援から身を引くべき」と注文した。

これに対し『文芸春秋』で反論するのは、プーチンが最大の政敵とみなし、英国に亡命したロシア石油会社「ユーコス」元社長、ミハイル・ホドルコフスキーだ。「ウクライナを断固として支援し続け、プーチンを止めなければ、西側はおそらく一~二年のうちにもっと大きな代償を払う」と指摘。譲歩すれば、プーチンは必ず次の攻撃を仕掛けるという。

「プーチンは長期戦に臨み、西側が折れてくるのを待っている」「戦争が長期化すれば、西側はウクライナを支えきれなくなるとプーチンは踏んでいる」とプーチンの狙いは戦争長期化による西側分断と指摘。西側がウクライナ支援を弱め、停戦による領土割譲をすれば、「ウクライナ全土の支配を固め、北大西洋条約機構(NATO)加盟国をも侵そうとする」と警告し、次は、「バルト諸国かもしれないし、ポーランドかもしれない」と予告する。

元駐米大使の佐々江賢一郎も『中央公論』で、「今、ロシアに白旗を上げてしまえば、力のある者がない者を従属させるという、暗くて耐え難い『苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)』の日常が子々孫々まで続くことへの想像力が足りない」と述べ、徹底抗戦するウクライナを支持し、「制裁をしなければいい世界になっていくかといえば、逆に悪い世界になっていく可能性が高い」と述べ、侵攻を既成事実化せず、制裁で世界秩序を守るべきだと訴える。

米国の政治学者、ラリー・ダイアモンドも、『Voice』で、西側がウクライナへの武器供与をやめれば、双方の命を救えるとの意見があるが、「ヒトラーが六〇〇万人ものユダヤ人を大虐殺したように、今回のウクライナ戦争を早く終わらせることだけを考えてロシアに勝利を与えれば、多くの命を救うどころかウクライナ人への大虐殺が起きかねません」と停戦に疑問符をつけ、「人権や民主主義といった価値のために戦う覚悟をみせなければ、やはり最終的には独裁者に勝利を許してしまう」と論じた。

さらに、「ロシアが戦争に勝てば、世界は悲惨な事態に陥ります。ロシアが軍事侵攻以前よりも領土支配やパワーを増した場合には、第二次世界大戦後のリベラルな国際秩序は大きな損害を被ります」と警鐘を鳴らし、「世界の民主主義を後退させないためには、ウクライナがこの戦争で勝つことが非常に重要」と力説する。

ホドルコフスキーも『文芸春秋』に、「この戦争の勝敗はヨーロッパの安全保障とロシアの将来を左右する」とし、「ウクライナがプーチンを打ち負かせば、プーチン体制が崩壊する可能性がある」と指摘する。

「西側がウクライナを支援し続け、ロシア軍を二月二十四日の侵攻前まで押し戻せば、プーチンの敗退を意味する」と論じ、クリミア奪還までは無理だが「侵攻前のラインまで押し戻す可能性は十分にありえる」と明言した。さらに「ウクライナで負ければ(中略)、プーチンは権力を失い、おそらく死を迎える」とし、その場合、「クレムリン内部で突然政変が起きる『宮廷クーデター』」の可能性にも言及した。

仏独は、2008年のジョージア紛争、14年のウクライナ東部紛争で侵攻したロシアに停戦を優先し、侵略に目をつぶった。既成事実化したことが今回の侵攻を招いたといえる。

安易な停戦は力で他国の主権を侵害し現状を変える暴挙を容認しかねない。侵略者は罰せられる必要がある。

「ロシアの侵攻の追認は、世界秩序の崩壊につながっていく」。佐々江は『中央公論』で、力説する。

スペインで29日から開かれるNATO首脳会議に参加する岸田文雄首相は、こうしたことを確認し、ウクライナ支援とロシアへの制裁を続けられるように米英の主戦派と協力して、不協和音解消と再結束を目指すべきだ。(敬称略) =次回は7月28日掲載予定

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