ウクライナに侵攻したロシアと、軍事同盟を結ぶ中央アジアの旧ソ連構成国カザフスタンの間にすきま風が吹いている。カザフのトカエフ大統領は17日、ロシアが侵攻に先立って「国家」承認したウクライナ東部の親露派支配地域をカザフが国家承認しないと表明。トカエフ氏がロシアからの勲章授与を拒否した、とも伝えられた。露与党幹部からは、カザフもウクライナと同じ運命をたどる-と脅迫じみた発言も飛び出した。
トカエフ氏は17日、露北西部サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムの全体会合にプーチン露大統領と2人で出席。質疑応答で、ロシアが国家承認した親露派武装勢力「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」(自称)をカザフは正式な国家とみなしていない-とし、承認しない考えを示した。
「カザフは開かれた市民社会で、国民には特別軍事作戦(侵攻の露側呼称)への多様な意見がある」とも指摘。露メディアは、国民の侵攻批判を事実上禁じたロシアを当てこするような異例の発言だと報じた。
さらにカザフメディアは18日、フォーラムでロシアがトカエフ氏に国家勲章を授与しようとしたが、トカエフ氏が断ったことを同氏の報道官が認めた-と報じた。ペスコフ露大統領報道は「勲章授与は当初から計画されていなかった」と否定。真相は不明だ。
トカエフ氏の発言について、露政権与党「統一ロシア」幹部のザトゥリン氏は18日、露ラジオ局のインタビューで「ロシアへの挑戦だ」と反発。「ウクライナのような問題がカザフにも起き得る」と述べ、軍事力の行使さえちらつかせた。
ザトゥリン氏の発言の背景には、露国内で以前から「侵攻に関し、カザフはロシアに非同調的だ」との見方が強いことがある。実際、トカエフ氏は侵攻当初から対話による早期停戦を求めてきた。ウクライナのクレバ外相によると、4月に会談したカザフのトレウベルディ外相は、ロシアの制裁逃れに協力しない、と約束したとされる。
トカエフ氏はフォーラムで「露社会の一部にカザフへの批判があるが、両国の関係悪化はロシアの損となる」と忠告した上で関係発展を続ける意思を示した。
外交官出身で欧米側との人脈も深いトカエフ氏は、ロシアとの対立を避けつつも、ロシアに同調して欧米側との摩擦を招く事態を防ぐ思惑だとみられている。