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歌碑めぐりのポケットに 「自註鹿鳴集」会津八一(岩波文庫)

産経ニュース

奈良・興福寺の五重塔を右手に東へ、奈良国立博物館までの道すがらに「はるきぬと いまかもろひと ゆきかへり ほとけのにはに はなさくらしも」と石に彫られた歌碑が建っています。

猿沢池のほとりには「わきもこか きぬかけやなき みまくほり いけをめくりぬ かささしなから」、東大寺南大門の近くにも「おほらかに もろてのゆひを ひらかせて おほきほとけは あまたらしたり」。他にも新薬師寺や唐招提寺、秋篠寺、法華寺…。奈良の古寺をめぐるといたるところで会津八一の歌碑に出会います。

八一は歌人や美術史家として広く知られていますが、すぐれた書家でもありました。独特の書体は、見ればすぐ八一の筆によるものだとわかるほどです。そのため存命中にできた歌碑には強いこだわりを見せたといいます。

例えば元の字の拡大や縮小をよしとせず、原寸大のまま石に転写することを八一は望みました。さらに納得のいくまで石工に何度も細かな修整を求めたと伝わっています。石に刻まれた書はほとんど半永久的にのこるからこそ妥協を許さなかったのでしょう。

『自註鹿鳴集』には大和の古寺を詠んだ代表的歌集「南京新唱」をはじめ「斑鳩」や「南京余唱」など奈良に関わる歌だけでも約二百首が自らの注釈とともに収載されています。もちろん前掲の三首も。すべて平仮名の原文は分かち書きで、例えば「はる きぬ と いま か…」と孤高の美的センスでした。

大和路めぐりといえば和辻哲郎『古寺巡礼』や亀井勝一郎『大和古寺風物誌』は古典的名作ですが、『自註鹿鳴集』をポケットにしのばせ八一の歌碑を見つけるのもオススメです。

大阪府八尾市 松村翔太(35)

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