スポーツ茶論

「石油王国」のゴルフ 黒沢潤

産経ニュース
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(ゲッティ=共同)
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(ゲッティ=共同)

19年前の冬に空路、サウジアラビアへ飛んだ。領空内に入っても、夜間のため砂漠上空の機内から何も見えなかったが、首都リヤド上空にさしかかると一変。宝石箱をひっくり返したような青や紫、赤などの〝光の海〟が漆黒の闇夜に浮かび上がった。夜なのに巨額の電気代を浪費している、とため息をつくとともに産油国の豊かさを実感した。

原油埋蔵量は当時、世界の約4分の1。人口2千万人前後の国家に王族だけで7千~8千人おり、王族給与は年間100億ドル超(1兆数千億円)に上るといわれた。王族の暮らしぶりは破格で、「彼らの宮殿のドアの取っ手は純金で作られ、宮殿には消防隊1個隊が待機しているほど」とも聞き、耳を疑った。

19年後の今、王族の数は約10倍の「6万~7万人」(外交筋)へと膨れ上がっているとされるが、莫大(ばくだい)なオイルマネーに支えられ、国庫はさして痛んでいないと推察する。

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豊かなこの国が最近、ゴルフ界で物議を醸している。サウジ政府系ファンドが支援する新ツアー(9日、英国で開幕)をめぐるものだ。同ツアーへの流出を懸念する米PGAツアーが傘下の選手に参加中止を警告したが、米国のスター、フィル・ミケルソンら17人が参戦し、追放処分を受けるに至った。年に8大会行われ、各大会優勝者の賞金は400万ドル(約5億4千万円)。予選落ちはなく最下位でも12万ドル(約1600万円)獲得できる。いわば米ツアー17人の頰を札束でたたき、自陣営へ迎え入れたに等しい。

物議を醸すのはこの件にとどまらない。同ファンドの議長に、人権意識に疑念が持たれるサウジの実質的指導者、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が就いていることだ。皇太子は、王室批判の記者をトルコ国内のサウジ公館で殺害し、バラバラにした事件を「承認」した、と米情報機関から名指しされた人物だ。新ツアー開幕前の記者会見では、人権に関する質問も相次いだ。

英メディアは「皇太子に異論を唱えれば、刑務所行きや拷問、殺害が待ち受ける」と指摘するなど、国際社会が皇太子に向ける視線は厳しい。

苛烈な死刑制度の見直し、男性エスコートなしの女性旅行許可…。サウジの人権状況は変わりつつあるが、「もともとがひどく〝伸びしろ〟が大きいだけ」(元駐リヤド外交筋)との指摘もあり、皇太子のかじ取りで人権状況が劇的に改善したわけではない。

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新ツアーをめぐっては、米中枢同時テロ(2001年)の犠牲者遺族が今月、選手側に参加見直しを訴える公開書簡を送る事態も起きた。サウジ王族がテロリストを金銭的、物質的に支援したと米裁判で明らかにされた事実などを根拠に、「あなた方の新パートナーであるサウジ王国の支援で、テロリストが米国を攻撃し、われわれの愛する人が殺された」などと訴えた。

次から次へと異論が噴き出す新ツアーへの参加について、ダスティン・ジョンソンは「自分と家族に何が最善か考えた」と苦し紛れに説明。他選手も、参戦を正当化した。

ただ、記者殺害関与が疑われる皇太子を冷ややかに見るスター、ローリー・マキロイは「巨額の現金に振り回されている」と声を上げた。米PGAツアー会長も「お金、お金、お金ばかり語られ、閉口している」と苦言を呈した。

巨額マネーの提供、記者殺害、同時テロとの不可解な関わり…。これほど話題を振りまくツアーも珍しく、その「結末」は芳しくないと想像する。

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