孫とゲームを終えると、家の近くで補助輪付き自転車の練習をした。小さい頃は、家に自転車がなくて乗れるようになるのが遅かったことを思いだした。
家に戻って娘と話していると、ふと自分は子供たちと一緒にどれほど楽しい時間を過ごしただろうかと考えた。娘が4歳の時はバブル最盛期の東京で働いていた。子供の相手よりも会社での仕事を優先していた。今から振り返ると、もっと自分の時間を子供に差し出して過ごす生活もあったかもしれない。家族の幸せはお金や役職よりも一緒に過ごした時間によって決まってくる気がするからだ。また孫とゲームセンターで遊び、一緒に補助輪付き自転車の練習をしていると、自分の中にある子供の部分が浮かび上がってくる。これも大切にしておきたい。
娘に聞くと、孫にはこれまでゲームセンターでゲームをさせていなかったそうだ。孫は「おじいちゃんだったら、なんとかなる」と考えたのかもしれない。「たまには良い」と娘に許可をもらったので、次回も「鴨が葱を背負って来る」ことにしよう。
■楠木新(くすのき・あらた) 1979年、京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。50歳から勤務と並行して取材、執筆に取り組む。2015年3月、定年退職。現在、人事・キャリアコンサルタント。25万部を超えるベストセラーになった『定年後』(中公新書)など著書多数。22年6月に『転身力』(中公新書)を出版。