正論7月号

国防こそ最大の福祉 財政均衡主義が日本の安全を壊す 産経新聞特別記者 田村秀男

産経ニュース
沖縄県石垣島南方に展開する中国海軍の空母「遼寧」と飛行する艦載ヘリコプター(防衛省統合幕僚監部提供)
沖縄県石垣島南方に展開する中国海軍の空母「遼寧」と飛行する艦載ヘリコプター(防衛省統合幕僚監部提供)

※この記事は、月刊「正論7月号」から転載しました。ご購入はこちらをクリック

いわゆる平和憲法と日米安保体制のもとで最小限の軍事予算で済ましてきたわが国でも防衛予算拡張の議論が始まった。

強大な軍事力を持つ権威主義国家が国際ルールをいとも簡単に踏みにじる。ロシアのウクライナ侵略はその一端でしかない。軍事予算でロシアの四・五倍、国内総生産(GDP)は十倍の一党独裁中国による台湾有事、沖縄県尖閣諸島侵略はいつ起きてもおかしくない。

以上の情勢認識に関し、官僚中の官僚、財務省内に異論はなしだが、「安全保障政策はタカ派でも財政はハト派だ」とのつぶやきが聞こえる。同省幹部はまなじりを決して財政均衡のタガを締めようとする。脳内は戦後レジームに浸かったままなのだ。付き従う政財学界とメディア内の勢力も分厚い。

本編では防衛費のみならず財務省主導の財政政策がいかに安全保障を支える国力を衰退させてきたかを検証し、日本国と国民の安全を確保する財政のあり方を追求してみる。

「財務省は二十日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会を開き、政府が検討を進める安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」などの改定に向けた課題を議論した。経済や財政の構造強化は防衛力を充実させる観点からも重要だとの見解で一致。自民党内で広がる予算増額論を牽制した。財務省は『国民の生活や経済、金融の安定があってこそ防衛力が発揮できる』とし、指針などの見直しの議論では有事に備えた経済、財政の在り方も点検する必要があると主張した」(産経新聞電子版四月二十日から)。

自民党は防衛予算をGDPの一%以内にとどめる一九七六年の三木武夫政権来の政策を取り下げ、五年以内に二%へと倍増させるよう岸田文雄政権に提案している。日本の防衛費はグラフ1が示すように、東西冷戦、冷戦後、さらには日本を取り巻く国際情勢がどう変わろうともGDP比一%で一貫してきた。

均衡財政主義を省是とする財務省がその論理の各界への浸透を図るための便宜手段としているのが、財政制度等審議会(財政審)である。経済学者、財界人、金融専門家など三十人で構成されているが、財務省主計局官僚が議題と報告書を提出し、何度かの会合を経て官僚が諮問案をまとめて財務相に提出というコースを辿るのが通例だ。自作自演同然なのに、あたかも各界の総意のような衣装を着て、権威付けしたつもりになるのは滑稽だが、世間に対して何事も手抜かりのないように仕立て上げ、「無謬」(間違わない)を押し通す官僚の性とでも言うべきか。

かの四月二十日の「防衛」と題する財政審提出文書は財務官僚の経済観の恐るべき貧困ぶりを浮き彫りにしている。文書の「まとめ」に「経済・金融・財政面における『脆弱性』の低減と防衛力強化をいかに両立させるか」という項目を加えている。構成するのは以下の項目だ。原文通りに羅列してみる。▼経済・金融面では既に有事対応となっている中、我が国自身に軍事的有事が生じれば、あらゆる状況が一変し、我が国に深刻な影響。▼脆弱性を放置し続ければ、その脆弱性・姿勢を相手国に狙われるおそれ。▼防衛力は、国民生活・経済・金融などの安定があってこそ。▼防衛力強化のみならず、経済・金融・財政面の脆弱性を低減しなければ、必要とされている「抑止力」や「継戦能力」を強化・確保することにならない。

「経済・金融面では既に有事対応」というのはロシアのウクライナ侵略に対する米欧の対露制裁への日本の協調を、「我が国自身に軍事的有事」とは台湾海峡、尖閣諸島などへの中国の侵攻を指すのだろう。前述の産経記事が触れた「国民の生活や経済、金融の安定があってこそ防衛力が発揮できる」と同じ趣旨のフレーズが随所に出てくる。

ちょっと気の利く中学生の作文のようだが、日本経済を分析してきた筆者としては、財務省御用エコノミストや薄っぺらな評論家の空言のようでしらじらしい。

無定見な尺度で比較

「経済・金融・財政面における『脆弱性』」をこれまで深刻化させてきたのはだれか。「経済・金融・財政面の脆弱性を低減」する役割を担うのは何か。GDPの五割以上相当の資金を占める財政を取り仕切る財務省と財務官僚のはずである。国家エリートとしての矜持、内心忸怩たる思いがまるでない。

冒頭で防衛予算論点として挙げるのは、①防衛関係予算は中期防衛力整備計画に基づき、一貫して増加。令和四年度は初めての五・四兆円超え②防衛関係予算の一貫した増加は、他の経費の削減・効率化を実施することで実現③複数年度にわたる防衛関係予算の在り方の議論は、あらゆる経費との配分の議論に直結―の三点だ。要は、防衛予算を今後継続的に増額するなら他の予算を削減しなさい、という意図ありありだ。

そこで、諸外国と比較する。「わが国の安全保障に関連する経費の水準」としてNATO(北大西洋条約機構)定義を参考に持ち出し、六・九兆円程度、対GDP比一・二四%程度であり、金額ベースでは英独仏と同程度だという。さらにGDP比二%の場合には十一・二兆円程度との注釈をつけている。防衛費を安全保障経費と言い換えて大きくみせたいのだろう。NATO定義からすれば海上保安庁などの経費も加わることになるが、海上保安庁の巡視船が沖縄県尖閣諸島周辺で領海侵犯する中国艦船を武力で撃退する能力を持ち合わせず、もっぱら拡声器で日本の漁船の退去を促すしかない現実でも、「安全保障関連だ」と、主計局官僚は言い張るわけだ。ちなみに国際的な共通の尺度で防衛費算出で最も権威あるストックホルム国際平和研究所(SIPRI)データでは、防衛費のGDP比(二〇二一年)は日本一・〇七%、ドイツ一・三四%、英国二・二二%である。

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「正論」7月号 主な内容

【特集】国防は最大の福祉

防衛・自衛隊OBが財務省に徹底反論 元防衛装備庁長官 深山延暁 元陸上幕僚長 岡部俊哉 元航空総隊司令官 福江広明 元海上幕僚長 村川豊

日本の国防を中国目線で語るのか 元防衛相・自民党安全保障調査会長 小野寺五典

財政均衡主義が日本の安全を壊す 経済快快特別版 産経新聞特別記者 田村秀男

写真で検証 お粗末ロシア軍 元陸上幕僚長 岩田清文×カメラマン 宮嶋茂樹

【特集】ソ連の蛮行を忘れるな

語り継ぐべき「満洲大虐殺」 ノンフィクション作家 早坂隆

樺太で見た住民虐殺と洗脳教育 全国樺太連盟元副会長 金谷哲次郎 聞き手 本誌編集部

露「入国禁止リスト」48号の弁 産経新聞論説顧問 斎藤勉

映画で蘇る忌まわしき残虐 映画評論家 瀬戸川宗太

【特集】憲法改正へ動き出せ

いまこそ9条語るべき 元内閣総理大臣 安倍晋三×麗澤大学特別教授 産経新聞ワシントン駐在客員特派員 古森義久

緊急時対応への円滑な移行を ニューレジリエンスフォーラム事務局長 濱口和久

現行憲法で人命は失われる 関西大学特別任命教授・社会安全研究センター長 河田惠昭

憲法改正で危機突破を! 公開憲法フォーラム ジャーナリスト 櫻井よしこ/自民党憲法改正実現本部長 古屋圭司/公明党憲法調査会事務局長 濵地雅一/日本維新の会憲法改正調査会長 足立康史/国民民主党代表 玉木雄一郎

いまだに満開 護憲派〝お花畑〟 本誌編集部 溝上健良

日本に望ましい持続的円安 慶應義塾大学教授 野村浩二×エール大学名誉教授 浜田宏一

行政が加速させる教育の両極化 連載「元老の世相を斬る」 元内閣総理大臣 森喜朗

中国が偽情報を流す手口 チャイナ監視台 産経新聞台北支局長 矢板明夫

【特集】中国人権弾圧

チベットで起きていること ダライ・ラマ法王日本代表部事務所 日本・東アジア代表 アリヤ・ツェワン・ギャルポ

「在日ウイグル人証言録⑩」中国の宣伝戦に利用されるな 評論家 三浦小太郎

<証言1>ラフマン(仮名・男性)「信仰に篤い人への故なき弾圧」<証言2>アザット(仮名・男性)

「このままではウイグル人は消される」正統な皇統の死守を ジャーナリスト 葛城奈海

日本が無視できない米の妊娠中絶訴訟 麗澤大学准教授 ジェイソン・モーガン

私は台湾生まれの日本人である 大井満(台湾名、楊馥成)

自民・埼玉県連が推す「LGBT条例」 本誌編集部 安藤慶太

「月曜のたわわ」を性的に見たい人達 大田区議会議員(東京都) 荻野稔

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