ウクライナ侵攻に重ねるシベリア抑留 96歳「記憶」の弾き語り

産経ニュース
アコーディオンを抱え、抑留体験の弾き語りを聴かせる田中唯介さん=兵庫県稲美町
アコーディオンを抱え、抑留体験の弾き語りを聴かせる田中唯介さん=兵庫県稲美町

ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、国際法を無視した非人道的行為を重ねるロシアの姿を70年以上前に味わった自らの過酷な記憶に重ね合わせる人がいる。旧ソ連による「シベリア抑留」から生還した体験を、アコーディオンの弾き語りで伝えている田中唯介(ゆいすけ)さん(96)=兵庫県高砂市。「ソ連からロシアに変わっても理不尽なやり口は同じだ」と憤りながら、涙や笑いも交えた渾身(こんしん)のパフォーマンスで平和の尊さを呼びかける。

高まるロシアへの関心

「逃げゆく者は撃たれていく。哀れというより言葉なし」

兵庫県稲美町で6月5日に開かれた「平和祈念講演会」。ステージには大きなアコーディオンを抱え、96歳とは思えない伸びやかな歌声と語り口で聴衆に滔々(とうとう)と訴えかける田中さんの姿があった。

レパートリーは軍歌や童謡唱歌、歌謡曲、クラシックなど1万曲以上。自作の歌も約60曲ある。これらの中から約20曲を選び、出征から終戦、そして抑留の苦しい日々と帰国の喜びなど自身の半生を語りつつ、楽曲を織り交ぜて聴かせた。

「1両の貨車に50人ずつ詰め込まれ、外から錠がかけられたのです」「飢えと寒さと重労働、戦友が次々と倒れていきました」

ソ連・カラガンダでの抑留生活時、田中唯介さんがガラスの破片を使って自作した木製のスプーンとしゃもじ=兵庫県高砂市

涙と憤りなしには聞けない体験談。アコーディオンを奏でる手は、氷点下30度の貯木場で従事した強制労働の作業中、凍傷で指2本を切断する悲劇に見舞われている。

その一方で、歌手・東海林太郎の髪形をまねて当時のヒット曲を歌ったり、引き揚げ後に自宅で果たした母親との再会を「『岸壁の母』ではなく『玄関の母』でした」と語ったりと随所にユーモアも。悲惨な物語に差し込まれた笑いは、会場をより一層わかせた。

こうした弾き語りを昭和50年代から各地で続けてきたが、今回の講演会は新型コロナウイルス禍の影響で令和2年11月以来となる久々のステージ。小さなホールは満席となり、立ち見客が廊下にもあふれた。

「以前とは聴衆の熱気が全然違った」と田中さん。ウクライナ情勢が連日報じられる影響で、ロシアという国家や平和のあり方といったものに対する関心の高まりを感じたという。

過酷な抑留、5万5千人死亡

第二次大戦終結時、ソ連軍が当時の満州や北朝鮮、南樺太にいた日本兵を捕虜として国内の収容所に移送し、過酷な労働を強制した「シベリア抑留」。実は、移送先はシベリアだけではなく、モンゴルや中央アジア、モスクワ付近にもおよび、2300以上の収容所があったとされる。

厚生労働省によると、抑留者数は57万5千人にのぼり、昭和31年までに47万3千人が帰国したが、抑留中に5万5千人が死亡したことも確認されている。

田中さんは昭和19年11月に召集され、舞鶴の重砲兵連隊に入隊。20年2月に満州の部隊に転属となって大陸へ渡り、奉天で終戦を迎えた。武装解除後はソ連軍の捕虜となり、列車で今のカザフスタンに当たる中央アジアのカラガンダへ。抑留生活は24年まで続き、同年11月に引き揚げ船で帰国した。

アコーディオンの奏法は抑留生活中に習得した。同じ収容所にいたドイツ兵捕虜にベルリンフィルハーモニー管弦楽団員が20人ほどおり、その中のアコーディオン奏者から弾き方を習ったのだという。

「ロシア兵も被害者だ」

「日ソ中立条約の有効期間中に太平洋戦争に参戦した上、8月15日以降も攻撃を続け、『ダモイ・トウキョウ』(東京へ帰還させてやる)とだましながら日本人捕虜を自国内に移送・抑留して強制労働を強いる。ソ連がどれだけ国際法違反を重ねたか、なぜ私があんな目に遭わなければいけなかったのか」と田中さん。

アコーディオンを抱え、抑留体験の弾き語りを聴かせる田中唯介さん=兵庫県稲美町

それでも昭和50年代には「ソ連船友好会」という団体を結成し、兵庫・播州地方に入港するソ連船の乗組員と交流を深める活動に取り組んだ。機会があるごとに、ソ連の駐日大使や総領事らとの面会も積極的に求めた。恨みや憤りを押し殺し、「ソ連の本当の姿、考えを知りたい」と考えたからだ。

しかし、今回のウクライナ侵攻に直面し、「結局何も変わっていない」と失望を隠さず、「ロシアに移送されたウクライナ兵の扱いもとても心配だ」と自らの抑留体験と重ね合わせて心を痛める。

だが、「ロシアやプーチン大統領は許せないが、その憎しみをロシア国民に向けてはいけない。ある意味ではロシア兵も被害者だ」とも。「音楽で戦争を止めるのは難しいが、人々の心を少しずつ変えていけるかもしれない」と、老いの進む体を押して、県内外から寄せられる講演のオファーに応じている。(小林宏之)

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