多くの人々の人生を一変させた原発事故から11年余り。最高裁が下した国の賠償責任を認めないとする初判断は原告にとって厳しいものとなったが、東日本大震災における地震や津波の規模は、原告が論拠とした国の津波予測「長期評価」の想定をはるかに上回っていた。対策をしたとしても事故は防げなかった可能性は高いとした最高裁の判断は、法的に見れば妥当なものだ。
日本にとって、原発が必要なエネルギーであることは論をまたない。ロシアのウクライナ侵略で世界的にエネルギー価格が高騰する中、国内の火力発電所は老朽化し、電力需給の逼迫(ひっぱく)は深刻化している。電力の安定供給や電気料金の低減のみならず、脱炭素にも寄与する原発の重要性は高い。
一方、故郷や生業を奪われた福島の人々は、「国策」で進められた原発の安全性を信じていた。想定外であっても、ひとたび事故が起きれば、文字通り取り返しのつかない災厄を引き起こす。今も3万人以上が避難生活を余儀なくされる福島第1原発事故は、それを端的に表している。
国は今回の判決を受けて改めて襟を正し、安全に原発を活用するための施策に全力を尽くすべきだ。(原川真太郎)