ビブリオエッセー

「擬態」を通して語った自己 「デミアン」ヘルマン・ヘッセ著 高橋健二訳(新潮文庫)

産経ニュース

『デミアン』、もしくは『デーミアン』。最初に手に取ったのは後者の書名で、他の訳者のものも読みたくなり、高橋健二訳にたどり着いた。折に触れて幾度も読み返す愛読書だ。

本書は初め、著者名を「エーミール・シンクレール」という匿名で出版された。実は主人公の名前なのだが、その後、ヘッセは本名を公表して書名の副題に「エーミール・シンクレールの青春の物語」と添えた。

小説はシンクレールがラテン語学校に通う10歳の時から始まる。少年の心は家庭などのあたたかく正しい世界と、一方で暗く恐ろしい世界との間で揺れ動いていた。

あるとき、虚勢を張ってついた噓から同級生に脅される。しつこくつきまとわれていたところを助けたのがデミアンだった。デミアンはこう諭した。善と悪のどちらにも偏らず自己自身として生きよ、と。デミアンという名はデーモン(悪魔)を想起させる。彼から旧約聖書のカインを擁護する解釈を聞いて驚くシンクレールだが、デミアンに強く惹(ひ)かれていく。

「私は、自分の中からひとりで出てこようとしたところのものを生きてみようと欲したにすぎない。なぜそれがそんなに困難だったのか」。冒頭のエピグラフ。真摯(しんし)な告白だ。

ヘッセが初期の『郷愁』『車輪の下』など牧歌的な小説から後期の内面へと踏み込んだ大作につながる過渡期に書いたのが『デミアン』。自我を隠そうとしつつもあらわになる。

『デミアン』もそうだが、後の『荒野のおおかみ』にもある人物の手記を預かった編集者の序文が付され、また『ガラス玉演戯』も演戯名人の伝記を著者が編纂(へんさん)したという設定になっていた。擬態を通してこそ、誠実で赤裸々なまでに正直なヘッセの声が聞こえてくる。

長崎県佐々町 田中龍太(31)

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