約480もの商店街があるとされる大阪市。それぞれが個性あふれる存在だが、10以上の商店街が一本でつながる場所があるという。大阪・本町から日本一の高さを誇る複合ビル、あべのハルカス(同市阿倍野区)に至る約5・2キロのルートだ。確かに地図でみると「一筆書き」に。これに気付いた地形図愛好家の小西尉司(じょうじ)さん(82)=同市住吉区=がウオーキングマップを作成した。タイトルはずばり「ハルカスまでアルカス」。さてどんなコースなのか、歩いてみよう。
個性派ぞろい
北の起点となる大阪メトロ本町駅近くの「せんば心斎橋筋商店街」から、天王寺駅近くのあべのハルカスを目指す。ルート上には名前のついていない商店街もあるが、大半は個性的な商店街というのも特徴だ。
調理道具や厨房(ちゅうぼう)用品などを扱い、職人たちに愛用されている「千日前道具屋筋商店街」(中央区)▽フィギュアやアニメなどマニア向けグッズの店が並ぶ「日本橋筋商店街」(浪速区)▽通天閣のたもと、「新世界」に位置し、串かつ店などが並ぶ「南陽通商店街」(通称・ジャンジャン横丁、同区)-と観光スポットとして人気の商店街が並ぶ。
扱う品物から店、客の雰囲気までそれぞれに特徴があり、変化を楽しめる。
にゃんと素敵
さらに視点を変えれば別の楽しみが増える。
たとえば「健康」。今回のルートを踏破すると2万歩以上歩くことになり、途中で買い物などもすればもっと歩数が増える。コロナ禍で家にこもりがちだった人にとっては、運動不足の解消も期待できそうだ。
これからの季節は水分補給や休憩も必要だが、食べ歩きも楽しめる。
また、商店街以外の「名所」も楽しめる。
例えば、道頓堀の法善寺。織田作之助の小説「夫婦善哉」の舞台として有名だが、近年、近隣に住むネコが集まるスポットとしても知られている。水掛不動に手を合わせたあと、境内を隅々まで観察すると意外な場所にネコの姿があるはず。取材日も石塔と同化したネコをキャッチした。
小西さんが作成したマップでは、法善寺横丁周辺をクローズアップした図面も紹介。「水掛不動の左側の幅1メートルの小道に入る」など、込み入った路地の多い同横丁付近を「一筆書き」で通過できるコースを伝授している。
周辺では、戎橋(えびすばし)の「グリコの看板」など定番の観光スポットも通過。改めてミナミの魅力を再発見できそうだ。
地域活性化へ
マップを作成した小西さんは、ウオーキングコース作りが趣味。自らまちを歩き、あまり知られていないコースの開拓を目指している。
これまでにも、大阪府の河内長野市から堺市までを流れる西除川(にしよけがわ)沿いを巡る32キロのコースや、標高の低い山ばかりをつなぐ「西国七低山めぐり」などユニークなコースを考案。手作りで冊子にし、知人など希望者に配布している。
今回のマップ作成のきっかけはコロナ禍だ。訪日外国人客の減少で観光が低迷するなか、改めて大阪を楽しめる観光資源がないかを考えて生まれた。かつて大阪市内をめぐる100キロコースを作った際、商店街が連続することに気付いたという。
「通常、商店街はスポットごとに訪ねることが多いためか、船場(本町)から天王寺まで商店街が連なっていることをほとんどの市民は知らない。コース上の商店街は業態の多様さで訪れた人を飽きさせないと思う」と話す。
一本でつながっている約5・2キロを一つの商店街とみなすと、日本一長い商店街とされる「天神橋筋商店街」(約2・6キロ、北区)の2倍の長さになる。小西さんは「大阪の新たな名物にし、地域活性化につなげたい」と意気込む。
昭和の街並み
ゴールまであと一息。「飛田本通商店街」(動物園前一番街・二番街、西成区)に差し掛かった。周辺には全国有数の日雇い労働者の街「あいりん地区」があり、通りを歩いているのは中高年の男性が目立つ。
年季の入った店舗が多く、昭和の街並みが色濃く残る路地裏は懐かしさを超えて映画のワンシーンのようだ。遊歩道に整備された南海電鉄の廃線跡や「猫塚」がある松乃木大明神など商店街以外でも楽しめる場所が満載だ。
同区の新開筋商店街に入ると薄暗く、店構えや看板はさらに昭和感が増す。道中では、飛田新地につながる通りとも交わる。
さらに歩を進めると、トンネルを抜けたかのように視界が開けた。見上げるとあべのハルカスが。レトロ感あふれる商店街と見事な好対照だ。雑多なものすべてを包み込む大阪の懐の深さが感じられる。
今回のマップについて新世界町会連合会の近藤正孝会長は「観光コースの紹介といえばエリア別が一般的で、位置関係や距離感がわかりにくい。エリア間のつながりがわかるこのマップはええアイデアですね」と共感する。もくろみ通り、新たな観光資源となるか注目だ。(北村博子)
マップの問い合わせは小西さん(kai545@violin.ocn.ne.jp)。