【ワシントン=大内清】米連邦最高裁の保守派判事を暗殺しようとしたとして、検察当局は8日、西部カリフォルニア州の男(26)を殺人未遂の罪で起訴した。米メディアによると男は、最高裁で人工妊娠中絶を合憲とした1973年の判断が覆される可能性が高まっていることに憤ったためだなどと供述している。米国ではこのところ、同判断の維持を求めるリベラル派と中絶禁止を主張する保守派の対立が先鋭化。ホワイトハウスによると、バイデン大統領は事件について「最大限の非難」を表明した。
報道によると、男はカリフォルニア州ロサンゼルス郊外に住むニコラス・ロスキ被告。首都ワシントンに隣接するメリーランド州チェビーチェースにあるカバノー最高裁判事の自宅近くで同日未明、拳銃やナイフ、催涙スプレー、粘着テープなどを所持しているところを逮捕された。その直前に警察へ電話して、自殺を考えていることや判事の殺害計画をほのめかしていた。調べに対しては「(自分の)命をどう使うか考えて計画した」などと話しているという。
米国では5月、「ロー対ウェード」と呼ばれる中絶の合憲性を認めた最高裁判断を否定する多数派意見書の草稿が流出し、今月末にも実際に同判断が見直されるとの観測が強まっている。カバノー氏は同意見書に賛成しているとされる保守派判事の一人で、自宅付近ではしばしばリベラル派の抗議デモが起きていた。
またロスキ被告は、カバノー氏が銃規制の強化をめぐる訴訟で、銃所持の権利を擁護する保守派に有利な判断を下す可能性が高いことも暗殺計画の動機に挙げているという。カバノー氏は2018年、当時のトランプ大統領の指名を受けて最高裁判事に就任した。
米国では長年、中絶や銃規制の問題をめぐって保守派とリベラル派が争ってきた。それが最近では意見書流出や銃乱射事件の頻発を受けて特に先鋭化していると指摘されており、バイデン政権の行方を左右する11月の中間選挙でも重要争点に浮上している。
事件をめぐりガーランド司法長官は「判事への暴力は民主主義を破壊する行為だ」と非難した。