北方領土周辺で日本漁船が拿捕(だほ)されないための「安全操業協定」を、ロシアが7日、一方的に中断すると発表した。政府関係者によると、日本側は「一方的な発表は受け入れられない」と抗議。日本は協定履行に向け交渉を続ける考えだが、ロシア側の出方次第では既に妥結した日露間の他の漁業交渉にも影響が及ぶ可能性がある。
松野博一官房長官は8日の記者会見で、ロシア側の対応を「遺憾だ」と非難した。
安全操業協定は日露間に4つある漁業協定の一つ。北方領土の主権問題を棚上げした上で四島周辺のロシアが領海と主張する海域で、日本側がロシア関係機関に協力金を払ってホッケ漁やタコ漁などを行う仕組みだ。
今回、ロシアは日本側がこの協力金の支払いを拒んでいることを協定中断の理由に挙げている。水産政策に詳しい北海学園大の浜田武士教授は「ウクライナ侵攻に対する米欧日の金融制裁でロシアへの送金ルートが狭まったことを理由に、日本からの協力金を受け取れない状況を訴えるのではないか」と分析。その上で「協力金を受け取るための制裁緩和や資金調達ルートの特例などを求めてくる」とみる。
今年の安全操業に関する交渉は昨年12月に妥結。ホッケは9~12月、タコは10~12月と漁期が先のため、協定中断による現時点での影響は限定的とみられる。
だが、地元漁協の関係者からは「出漁できても拿捕される不安がある」との声が漏れる。今月には日露間でコンブ漁に関する別の交渉が妥結したばかりだが、「ロシア側に支払う採取権料が発生するだけに、今回の協定中断と同様の理由で見直しを求められる可能性もある」(浜田氏)という。