半導体エンジニアの獲得競争が一段と激しくなっている。世界的な半導体需要の高まりを背景に、日本が強みを持つ「フラッシュメモリー」や「パワー半導体」などで国内工場の生産能力増強が計画されており、企業が増産対応や開発力強化で即戦力となる人材を確保しようと経験者の中途採用を急いでいるためだ。令和3年度の求人数は2年度に比べ70%以上増加しており、こうした状況は今後も続くと予想されている。
フラッシュメモリー大手のキオクシアは、北上工場(岩手県北上市)で新製造棟の建設を進めている。スマートフォンなど電子機器の記録媒体として使われるフラッシュメモリーはデータセンターなどでも需要の拡大が見込まれており、約1兆円を投資して生産能力を約2倍に高める。5年に完成する計画だ。
こうした生産能力増強への対応に加え、開発力の強化を狙いにキオクシアは半導体エンジニアの中途採用を拡大している。元年度に113人だった中途採用者は、2年度275人、3年度280人と増加。4年度はさらに380人の採用を計画、各年度とも採用者数の8割ほどがエンジニアという。
東芝グループの東芝デバイス&ストレージは、電気自動車(EV)や産業機器などで電力制御に使われ、省エネでも重要な役割を果たすパワー半導体の生産能力を引き上げる。石川県能美市の工場に新製造棟を建設する計画で、第1期分として1000億円を投じ6年度中の稼働を目指す。
これに伴い、経験者の中途採用も含めて300人以上の新規雇用を計画。さらに第2期分の能力増強が決まれば、同程度の採用を行う方針だ。
各社が経験者採用を積極的に進めていることで、半導体エンジニアの求人は急増している。人材紹介サービスを提供するリクルートエージェントによると、半導体エンジニア求人数は3年度まで7年連続で増加。特に半導体不足が顕在化したこの1年の増加は著しく、平成24年度の10倍以上に達した。
同社の井上和真コンサルタントによると、「令和4年度の求人は3年度よりさらに増えている」という。3年度に募集したものの、予定採用者数まで達しなかった企業が募集を継続していることに加え、ここにきてパワー半導体各社の募集が本格化していることが背景にあると指摘する。
半導体企業からは「エンジニアの採用は難しさを増している」との声が漏れる。こうした状況について、井上氏は「少なくとも今年いっぱい、場合によっては7年くらいまでは続く」とみる。
先に行われた日米首脳会談で、次世代半導体の開発に向けた作業部会を設置することで合意するなど半導体の重要性は一段と増している。だが、国内メーカーは半導体事業からの撤退や縮小を繰り返し、多くの人材が流出し、技術を失った。各社とも新卒者の採用も増やしているが、育成には時間がかかるだけに、即戦力を期待できる半導体エンジニアの争奪戦はなお続きそうだ。(高橋俊一)