家族がいてもいなくても

(736)この地へ、ようこそ

産経ニュース
イラスト・ヨツモトユキ
イラスト・ヨツモトユキ

久しぶりに那須に戻ってきた。

東京に帰っていたのは、実はいろいろあってのこと。

そのいろいろの中身のすべては言えないけれど、人生は、いくつになっても、想定外のことがおきる。油断禁物よ、ということか。

というわけで、無理に動き回ったせいで、膝もさらに痛くなり、疲れ果ててしまった。

その間に、私の一番好きなあの芽吹きの美しい季節は、過ぎ去っていたのだった。

「きれいだったのに」とか、「今年は見逃しちゃったねえ」と言われ、「そうねえ」と相づちを打ちながら、ため息が出た。

思えば、美しい5月に、みんなで「原っぱ」に野外舞台を作り、いよいよ人形劇の立ち稽古を始める予定だった。

それがどんどん遅れる、という思いだったが、なんと留守中に、男性たちが、原っぱの草刈りをしてくれていた。

びっくりした。

ゴルフ好きのあの人も、足の痛い彼も、みんなで支えてくれているのだなあ、と、久しぶりに原っぱの前に立ち、胸が熱くなった。

皆に、草刈りの声を掛けてくれたのが、「原っぱ」の地主さんだったとか。

彼は、以前、原っぱの向こうの丘の上の素敵(すてき)な家に住んでいた。

妻をなくし、体調を崩し、今は店子(たなこ)の私と同じサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に入居され、仲間の一人に加わったのだ。

彼は乗って運転する「モア」という大きな草刈り機を持っていて、それで一気に刈ってくれたらしい。他の人も手動の充電式草刈り機で頑張ってくれたみたい。

それから、もう一つの変化があった。新たな入居者が急増していたことだ。

聞けば、目下、空き室がどんどん埋まっているらしい。

まさに、交通不便なこの土地へ、ようこそ、という状況だ。

しかも80代、90代の方もいて、みんな元気で、年齢を聞くたびにびっくりしてしまった。

思えば、団塊世代がこぞって後期高齢者となる「2025年問題」と呼ばれる状況が迫っている。

怒濤(どとう)のように介護難民が増えるのだ。そんな背景の中で、みな、居場所の確保に焦り始めたらしい。

確かに、このコロナ禍を経て、便利な都会よりも人が少なく、インフレにも強く、自給自足も可能な地方へと気持ちがシフトするのはうなずける。

人の意識は、かくも時代の変化に敏感なのだと、実感するばかりの私である。

(ノンフィクション作家 久田恵)

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