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いくつもの選択を重ねて 「岸惠子自伝―卵を割らなければ、オムレツは食べられない」岸惠子(岩波書店)

産経ニュース

《卵を割らなければ、オムレツは食べられない》

このフランスのことわざを、後に夫となる映画監督のイヴ・シァンピ氏が岸さんに告げた。人は人生の転機に「選択」という卵を割らねばならない。この副題に惹かれ、読み始めた。

女優・岸惠子さんと聞くとまず戦後のヒット映画『君の名は』の真知子だが、今や映画史の一ページである。『雪国』『おとうと』『細雪』など数々の出演作も名作リストの一編であり、近年は『ベラルーシの林檎』などのエッセーや小説を書く作家として、ジャーナリストとしての活躍の方が一般的かもしれない。

横浜生まれの少女がスター女優となり、フランス人との結婚と離婚、日仏を行き来しながらさまざまな仕事を続けてきた華麗な人生がこの自伝にはつづられている。

真知子巻きがあまりに有名だ。実はロケ地の美幌峠に雪が降り、あまりに寒々しいので手持ちの白いストールを被っただけだったという。監督は難色を示したというから面白い。

気に入ったのは90年代、岸さんが当時の皇后陛下、美智子さまから招待された話だ。緊張する岸さんに「惠子さんは、わたくしより二つ上のお姉さまなのよ」と話しかけられ、それから会話が弾んだという。岸さんが持参した野花のことをていねいに解説していただいたと書かれていた。二人の姿が目に浮かぶようだ。

成功の陰には孤独があった。仕事に追われる日々に愛娘デルフィーヌとの確執は深まった。岸さんは正直にこう書いている。「『家族』というものが睦みあって暮らすことが、わたしの果たせない夢であった」と。

どんな人も卵を割るときがくる。私もいつかまた。そんな思いで本を閉じた。

兵庫県尼崎市 渡辺陽子(46)

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