梅雨入りの前のこの時期、旧コアラ館の入り口付近にブラシノキが赤く色づきます。その名のごとく、ブラシのような形が面白い赤い花糸を持つ花が咲き、園内を彩ります。
ゴールデンウイークの天王寺動物園では、新施設「ふれんどしっぷガーデン」のオープンのほか、もうひとつ話題がありました。連休中の特別展として開催した「ふしぎな鳥『キーウィ』の魅力展」です。
キーウィはニュージーランドの国鳥となっている貴重な鳥です。天王寺動物園は約半世紀前に日本国内で初めて飼育を手がけ、現在も国内で唯一飼育している施設です。特別展は、キーウィにまつわる情報を発信しようと企画されました。
当園とキーウィのかかわりは昭和45年にさかのぼります。この年に開かれた大阪万博を記念して、2羽がニュージーランド政府から贈られました。これまでに計7羽が来園し、現在生存しているのはオスのジュン(40歳、昭和57年来園)とメスのプクヌイ(33歳、平成3年来園)の2羽です。
甲高い声で「キーィ、キーィ」と鳴くことからその名がついたとされるキーウィ。その生態はあまり知られていないように思います。
空は飛べません。また、夜行性で昼間は寝ていることが多いです。飼育を始めたころは展示場に「キーウィは今、寝ています」との看板がかけられ、来園者がなかなか見ることができなかったとの話が残っています。
その後、館内の昼夜を人工的に逆転させる夜行性動物舎がオープン。キーウィの歩き回る姿を見ることができるようになりました。現在飼育している個体は警戒心が強く、部屋に入る前は声がけをするなど驚かせないようにしています。
好物はミミズやコオロギ、牛の心臓肉です。ミミズは園内で捕まえたものをあげることもあります。ときには楽しみながら食事ができるようにと、筒の中に入ったえさを探してもらうこともあります。えさをそのまま出すより、キーウィにとって刺激になります。
高齢のためか季節によって食欲がなくなることもあり、いかに食事を楽しんでもらうかに腐心しています。少しでも快適な環境を提供して、さらなる長寿につなげていくのが目標です。
野生のキーウィは外来動物などによる捕食被害が深刻とされ、動物園での保全も重要になっています。当園は、キーウィの情報を発信するプロジェクトチームを結成し、今回の企画展も手がけました。今後も種の保存に向けた取り組みを進めていきます。
最後に動物園からクラウドファンディングのお知らせがあります。爬虫類(はちゅうるい)生態館アイファー「日本の自然」エリアのリニューアルへご支援をお願いいたします。期限は今月31日までです。(天王寺動物園園長(理事兼務) 獣医師 向井猛)
むかい・たけし 神奈川県藤沢市出身。北海道大大学院獣医学研究科修士課程修了後、札幌市の円山動物園で獣医や職員として勤務した。令和3年4月から天王寺動物園園長。漫画『動物のお医者さん』に「M山動物園の向田獣医」として登場した。