ソロモンの頭巾

長辻象平 ヒラメの応援団 処理水海洋放出「安心」に一役

産経ニュース
飼育水槽中のヒラメは折り重なって過ごす
飼育水槽中のヒラメは折り重なって過ごす

東京電力福島第1原子力発電所で3月から若いヒラメたちが飼われている。

政府が定めた方針に従って放射性核種のトリチウムを含む処理水を海洋放出しても水産物への影響がないことを実証するための活動の一環なのだ。

多核種除去設備(ALPS)でトリチウム以外の放射性核種を取り除いた処理水の海洋放出の安全性は国際原子力機関(IAEA)や原子力規制委員会によって肯定されているのだが、水産物への風評の広がりが可能性として残る。

安全性を数値だけでなくヒラメの健やかな成長ぶりで可視化しようというプロジェクトなのだ。

140匹を飼育

第1原発のヒラメの未成魚たちは発電所前の海から1キロほど離れた新事務本館に近い平屋の建物の中にいた。室内には青い角形のプラスチック製水槽が5基。

水量は各1トンで、うち1基は排泄(はいせつ)物のアンモニアなどを回収する濾過(ろか)槽だ。

この平屋の中にヒラメの水槽が置かれ、140匹が飼育されている

残り4基の中に計140匹の若いヒラメがいる。ヒラメ飼育プロジェクトの責任者、山中和夫さんが1つの水槽の覆いを外して中を見せてくれた。

いるいる、全長25~30センチほどの三十数匹が折り重なってじっとしている。他の個体を砂代わりにして下に潜り込むのでコーナー付近に集団ができる。

このヒラメたちは昨春、福島県栽培漁業協会から入手した人工種苗。今年、3月中旬に現在の水槽にやってきた。

役立つ先行研究

トリチウムを含む処理水を海水で希釈して海に流しても海洋生物に影響がないことを具体的に水槽飼育で示す取り組みなのだが、ヒラメたちが目下、暮らしているのは普通の海水中。

飼育中の若いヒラメ。顔はいかついが、気性は繊細

「われわれには魚類飼育の経験がないので基礎からのスタートなのです」とALPS処理水リスクコミュニケーション統括担当の柏木悦史さんは語る。

ただし、日本の電力、原子力分野の基礎研究の裾野は広い。電力中央研究所には閉鎖循環式の陸上施設でのヒラメ養殖の実績がある。エネルギー生産と海域環境の調和を目指す海洋生物環境研究所は福島事故後の海洋モニタリングのデータを持つ。

また別の研究所では核融合の実用化などを視野に燃料のデューテリウム(トリチウムの同位体)を含む重水中で魚を飼い、生体影響の有無を調べていた実績があるというから驚きだ。

第1原発のヒラメの飼育試験には、これらの豊富な先行研究の知見が反映されることになる。

秋から比較飼育

東電は第1原発から海底トンネルを掘削し、1キロ沖の先端部からの処理水放出を目指す。この計画は今月18日、原子力規制委員会の承認を得たところだ。

計画では、放出前に大量の海水で薄めて1リットル当たりのトリチウム濃度を国の排出基準の40分の1に当たる1500ベクレル以下にすることになっている。

第1原発のヒラメチームは今後、水槽の改良を経て9月からは放射線管理区域内のエリアに飼育設備を移し、処理水を海水と混ぜてトリチウム濃度を1500ベクレル以下にした水槽中での新たなヒラメたちの飼育を開始する。

その隣には普通の海水だけの水槽を置いてヒラメを飼い、両水槽での成育状況などを比較する。結果の中間報告は来年3月の予定だが、成育度や生残率などすべての点で水槽間の差は全く出ないはずだ。

なぜならトリチウムの発する放射線のエネルギーは微弱である上に、水分子の一部として存在するので体内から速やかに排出されていく。しかも1500ベクレルは国の排出基準の40分の1という低さなのだ。

政府の方針では、第1原発敷地内のタンク群の処理水の海洋放出は来春からの見通しだ。

ヒラメの水槽。現在は普通の海水で飼育の練習中だ

顔はいかついが

ヒラメチームは、ネット上の「海洋生物飼育日誌」で日々の水槽の世界を画像と短いコメントで紹介している。

顔はいかついが、ヒラメたちは繊細。緊張すると石のように固まってしまうのだ。原子力規制委員会の視察を受けた4月8日には「いつもと違う雰囲気を感じたのか、ジッと動かないヒラメたち」

ペレットの餌やりは1日置き。餌は底に沈む。「こちらが見ていると、ほとんどのヒラメは体に餌が乗っかっても気にしていない風を装っています。それが飼育小屋を離れるといつの間にか完食しているんですよね~(笑)」(4月26日)といった内容だ。

飼育チームは今後、アワビと海藻を飼育試験に加えることにしている。

処理水の海洋放出に関連して来日し、5月19日に第1原発を視察したIAEAのラファエル・グロッシ事務局長にもヒラメ飼育の試験が伝えられた。

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