「スタグフレーションが来る」報道の違和感 エネルギー価格の消費減税も選択肢に

SankeiBiz

「大離職」は、本当に高齢者がそのまま退職したケースも多いが、むしろ構造的な「摩擦的失業」を高めた。摩擦的失業とは、自分の能力に見合った待遇を得るために、新しい職が見つかるまで失業状態で過ごすことである。失業保険が拡充されたことで、この構造的な摩擦的失業が高まり、米国経済の持ち味ともいえる雇用の流動性が大きく損なわれた。

雇用の流動性とは、労働者が柔軟に職場を変わることができる度合いを示す。摩擦的失業など構造的な失業の割合が低かったり、あるいは景気が良かったりしたときの雇用の流動性は大きい。米国は不景気になるとリストラを大胆にして、それで企業のコストを切り下げる。その反対で景気が良くなると雇用が増加しやすい。

ところが今回は、「大離職」は、コロナ禍が終息に向かう中で、労働者不足を招いてしまった。労働者不足が、賃金の上昇を招き、それが物価の上昇を生み出した。なぜなら賃金は、財やサービスの経費であり、経費の上昇を販売価格に企業は転嫁するからである。

特に労働市場がひっ迫しているのをみている「摩擦的失業」中の人達は、もっと高い賃金が得られるのではないかと「予想」する。つまりもっと慎重に職探しすれば、より高い賃金を得られるだろうと、早期の就職に慎重になるのだ。

賃金の上昇予想は、このように現時点の「大離職」を強めることで、人出不足をさらに高めてしまう。つまり賃金上昇の予測が、現実の賃金上昇と物価の上昇を生み出すのである。ここに「予想」がキーになることがわかる。

FRBが金融引き締めに乗り出したのは、この賃金と物価のスパイラル的状況が高まったことにあるだろう。ただし賃金予想が反映している(5年先ぐらいの)物価予想をみると、まだ3%台前半である。実際のインフレ率が8.5%なのでかなりの開きがある。これはなぜか? それは物価上昇を短期的な現象としてとらえている人が多く、長期的には現状よりも落ち着く傾向にあると予想しているからだ。いまの世界の中央銀行、もちろんFRBもまたこの「物価の予想」を中心にして、金融政策のスタンスを決めている。

FRBのパウエル議長や、政府側のイエレン財務長官らは、金融引き締めは、米国経済を極端に減速させることなく、インフレを終息できるだろう、と自信を表明している。その自信の裏側には、このまだ低いインフレ予想があることは間違いない。だが、それは楽観しすぎるという意見も根強い。

例えば、元FRB議長のバーナンキ氏は、最近の講演の中で、「FRBの金融引き締めは遅すぎた。インフレ抑制に手こずり、米国経済は失業率の上昇など経済減速の可能性が大きい。このことをスタグフレーションと呼ぶことも可能だ」と手厳しい評価を与えている。実際にFRBと米国政府の楽観シナリオ通りになるか、それともバーナンキ氏らの悲観シナリオが妥当するかどうか、米国経済の世界経済に占める重要な位置からいっても今後も要注目だろう。

会談する岸田首相(右)とバイデン米大統領=23日午前11時36分、東京・元赤坂の迎賓館(代表撮影)

対して、欧州や日本はどうだろうか。インフレ率でみると、EUは5%台であり、他方で日本は2.5%である。両者にはインフレの度合いではかなりの差があるが、共通点もある。それは米国とは違って、欧州も日本も賃金上昇の予想も低いことだ。つまり中長期的な物価予想も低い。そのため欧州でも日本でも拙速な金融引き締めを批判する経済学者やエコノミストが少なからずいる。むしろ金融緩和を継続し、他方で研究開発やインフラ投資、教育、デジタル革命、環境投資をより一層はかるべきだ、という主張も多い。

先ほど指摘したように、日本の場合は、電気代・ガス代・ガソリン代などのかかる消費税を減税することが、極めて効果的だ。なぜなら現在の物価上昇の大部分がこれらのエネルギー関係のものだからだ。原発再稼働も当たり前だが最善の手番だ。いまこそ岸田政権は政治的リスクをとり、国民のための経済政策をするべきなのだ。それが高い内閣支持率に応える正しい道だろう。

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