街路の交通量調査は、多くの人員を長時間配置する“人海戦術”で実施されている。しかし東京都杉並区とNECが、街路灯にカメラを設置してAIで分析したところ、調査にかかる時間を9割以上削減。車両の危険な走行パターンが判明するなど、新たな効果も表れた。街路灯に先端技術を組み合わせることで、交通安全や防災に寄与する街の重要インフラとしての活用が進みそうだ。
はみ出し走行を可視化
杉並区とNECは2月14日から4月28日まで、AI技術で交通の流れなどを分析する実証実験を行った。区内の事故多発ポイントの街路灯にカメラを設置し、車両と歩行者の往来を撮影して映像を分析した。
同区はこれまで数年に一度の頻度で1日12時間、目視での交通量調査を実施してきたが、今回の実験では昼夜を問わず現場を観察。車両や歩行者の通行量のみならず、車種、速度、車線のはみだしの有無など多様なデータを収集した。NECによると、従来の方法に比べて業務時間を9割以上削減できたという。
杉並区都市整備部の尾田謙二・交通施策担当課長は、「撮影現場は下り坂があり、スピードを出しすぎてガードレールに接触する事故が多かった。問題のある場所だと認識していたが、今回の実験により、中央分離帯へはみ出して走行する車両もあるなど、客観的な事実が集まった」と効果を話す。
さらに、実験では故意に人が倒れる様子を撮影。人流の中で異常行動を発見すれば管理者にアラートを送る仕組みを試すなど、街路灯の新たな活用法を見い出せたという。
区では今回の結果を踏まえて現場付近の安全対策を検討していく。ただ、区内には3万4000もの街路灯があり、広く配置するには費用対効果の検討が必要という。
商店街、河川…広がる活用
杉並区はこれまでも、さまざまな目的で街路灯を活用する実証実験に取り組んできた。商店街では、防犯カメラを活用して人流の調査を行い、街の賑わい創出の基礎データを収集。街路灯の照明切れに素早く対応できる「スマート街路灯」の実証実験や、河川の水位や道路の冠水状況をリアルタイムに把握する「IoT街路灯システム」の導入なども行ってきた。すでに一部の街路灯では冠水センサーが運用されている。
ただ、現時点では「技術活用の選択肢」にとどまっている。今後も、自動運転、障害者の移動支援などへと活用の幅を広げ、時間をかけて効果を検証していくという。(大澤昌弘)