民事裁判の手続きを全面IT化する改正民事訴訟法が18日、成立した。これまでの裁判風景を一変させることになり利便性向上に向けた期待は大きいが、いわゆる「デジタル弱者」への対応といった課題もある。
「今は準備書面を提出するだけのために法廷まで出向かなくてはならないが、事務所にいたまま手続きできれば業務が大幅に効率化される」。東京都内の30代の男性弁護士は、IT化のメリットをこう話す。
画面を通して「傍聴」可能
証人尋問などもすべてオンラインで行うとする今回の法改正。憲法では「裁判は公開の法廷で行う」と定められており、オンライン法廷にモニターを設置し、弁護士や当事者らのやりとりを画面を通してみる形での「傍聴」も可能とした。
男性弁護士はオンライン法廷について、「便利になる」としつつ「画像が粗ければ証人尋問の時などに細かい表情が分からず、通常の法廷のような追及がしにくくなるかもしれない」との見方も示した。
経済界を中心に「国際的に後れを取っている」と、早期実現に向けた要望が根強かった民事裁判のIT化。改正法成立までの審議では、IT化と「裁判を受ける権利」をいかに両立させるかが焦点となった。
その代表格が、IT機器を使うのが苦手なデジタル弱者の存在だ。パソコンやネットを使いこなせない高齢者などに配慮し、訴状などのウェブ提出の義務づけは弁護士などに限るという案が採用されたが、高齢者を対象にした講習などの支援は急務。最高裁関係者は「関係機関と連携して(IT弱者への)対応を進める」としている。
「ずさんな判決」の危険
また改正法では、IT化の活用を前提に、審理期間に期限を設ける新たな訴訟手続きも新設された。
最高裁によると、令和2年の民事訴訟(地裁)の平均審理期間は9・9カ月。1年以上に及ぶケースも珍しくない。新たな手続きでは、原告と被告の双方が同意すれば、6カ月以内に審理し、その後1カ月以内に判決を言い渡す。
ただ、弁護士の一部からは「主張と立証を尽くすことができる権利を奪い、ラフジャスティス(ずさんな審理、ずさんな判決)になる危険がある」などとする懸念の声も上がっている。
この手続きを選んでも、途中で申し出れば通常の訴訟に戻すことは可能。懸念払拭のため、裁判所には新たな制度の周知を含めた適切な運用が求められる。