多くの住民や家屋をのみ込んだ危険な盛り土の造成・放置の責任はどこにあるのか-。静岡県熱海市の大規模土石流を巡る集団訴訟は18日、静岡地裁沼津支部で審理が始まった。「人災」と訴え、真相解明を求める犠牲者遺族ら原告側に対し、損害賠償の請求棄却を求める盛り土の土地の現旧所有者ら被告側。現所有者側は過去の対応の不備が指摘される県・市側の訴訟への参加を促しており、裁判の長期化も懸念される。
「〝役者〟を全部そろえないと」
18日の第1回口頭弁論。原告側の意見陳述が終わると、現所有者の麦島善光氏の代理人、河合弘之弁護士は突如、「訴訟告知」を通達した。県の第三者委員会から盛り土造成を巡る行政対応について「失敗」と指弾された県と市、そして斉藤栄市長の訴訟参加を求めるもので、その理由について「(現旧所有者側の)両者だけでは真相解明にならない」と述べた。
弁論後の記者会見で河合氏は「この訴訟は〝役者〟を全部そろえないと駄目だ。犠牲者のためにもなる」と力説してみせた。
原告側代理人の加藤博太郎弁護士によると、訴訟関連の書面の当日通告は異例。県や市などが応じるかは任意だが、関係者が増えれば審理に時間がかかる。
原告側の記者会見で、訴訟告知について加藤氏が「(行政への)責任転嫁は許されない」と語気を強めれば、母、瀬下陽子さん=当時(77)=を失った長男で被害者の会会長の雄史さん(54)も「奇策」と指摘し、「行政を巻き込んでも被告側の過失が薄まることはない」と強く非難した。
危険性の認識が最大の争点
現旧所有者らが盛り土崩落の危険性を予見できたかが、訴訟の最大の争点だ。
麦島氏側はこの日の裁判で、土地取得後の平成25年に県へ「下流域への二次災害防止の対策を取る」などと約束する文書を提出したとする原告の主張に「作成しておらず、目も通していない」と反論。河合氏は記者会見で「県や市が危険だと思っていないのを、こちらが危険だと思えるはずがない」と述べ、法的責任はないとの認識を示した。
市議会の調査特別委員会(百条委員会)の証人喚問では、麦島氏は「盛り土は知らなかった」、旧所有者の不動産管理会社の元幹部、天野二三男氏は「土地を貸して(盛り土の)届け出はしたが施工は別業者」と関与すら否定している。
加藤氏は「(盛り土について)行政から繰り返し指導を受けるなどしており、『知らなかった』というのは後からつくった言い訳に過ぎない」と述べ、予見可能性があったという点を審理で立証する構えだ。
被害者の会の40人ほどが駆け付けた初弁論。加藤氏は「犠牲者、遺族の無念を受け止めて真相究明を求めたい。真相は一つしかない」と力を込めた。