北川信行の蹴球ノート

本当に怖い脳振盪…「記録」より「人生」優先させた「鉄人」の好判断

産経ニュース
取材に応じるC大阪の金鎮鉉=大阪市此花区(北川信行撮影)
取材に応じるC大阪の金鎮鉉=大阪市此花区(北川信行撮影)

サッカー、C大阪の元韓国代表GK金鎮鉉(キムジンヒョン)(34)が2017年4月から続けてきたJ1連続試合フルタイム出場が、6日にヨドコウ桜スタジアムで行われた磐田戦で途切れた。理由は脳振盪(しんとう)の疑い。記録は歴代3位の181試合。2位の西川周作(浦和)の200試合を今季中にも抜く可能性があったが、金鎮鉉は「記録よりも、長く人生を続ける方が大事」と話す。適切な処置をしないと〝癖〟がつきやすくなって重い障害が残ったり、最悪の場合には死に至ることもあったりするという脳振盪の怖さを知るからこその、正しい判断だった。ちなみに、歴代トップは曽ケ端準(鹿島)の244試合。

交代枠使い切った後のアクシデント

ゴール前で激しく接触するC大阪の金鎮鉉と磐田の大津祐樹=ヨドコウ桜スタジアム(撮影・林俊志)
ゴール前で激しく接触するC大阪の金鎮鉉と磐田の大津祐樹=ヨドコウ桜スタジアム(撮影・林俊志)

アクシデントが起きたのは、磐田戦の試合終了間際だった。前半に2点を先行したC大阪だが、退場者を出して相手より1人少ない状態で守勢に回って磐田に1点を返され、さらに猛攻を浴びていた。そんな中、ジャンプしてボールをキャッチした金鎮鉉の下に、勢いよく走り込んだ磐田のFW大津祐樹の体が潜り込むような形となり、金鎮鉉はバランスを崩して地面にたたきつけられた。

プレーが止まり、主審はすぐに大津にイエローカードを提示。なかなか立ち上がれない金鎮鉉のもとにはC大阪の医療スタッフらが駆け付ける。記者席から見ていると、最初は強打した左肩を気にしているように見えた。応急処置が終わり、いったんはプレーを続行した金鎮鉉だが、再びうずくまる。医療スタッフが駆け寄って交代のサインを出し、金鎮鉉はふらふらとした足取りでスタッフとともにピッチを出た。

問題となったのは、この時点でC大阪が5枚の交代カードを使い切っていたことだ。通常の負傷退場であれば、新たに選手を送り込むことはできず、フィールドプレーヤーの誰かを急造のGKにしなければならない。実際、C大阪の小菊昭雄監督は184センチと長身のFW山田寛人をあてがうべく用意をしていた。11日の公開練習の際の取材対応で「残り時間を守り切るという中では、最終ラインをいじりたくはなかった。前の選手で身長のある(山田)寛人を(急造GKとして)使おうと思っていた」と明かした小菊監督は「いろんなことが起こり、勉強させられた」と振り返った。

結局、脳振盪の疑いでの交代が認められ、ベンチ入りしていた控えGKの清水圭介が代わってゴールマウスを死守。2-1の逃げ切りに成功したC大阪はリーグ戦今季ホーム初勝利を飾った。清水は「脳振盪のこともあるので…」と交代枠がなくなった後でも、出場できるように準備は怠っていなかったと胸を張った。

競技者の保護を最優先

取材に応じるC大阪の清水=大阪市此花区(北川信行撮影)

競技中に選手に脳振盪の疑いが生じた場合には、通常の交代枠とは別枠で対応することが試行されるようになったのは、サッカーのルールを決める国際サッカー評議会(IFAB)が2020年に発した通達がきっかけ。その中で、脳振盪の専門家なども交えて検討を重ねてきたことを強調したIFABは「脳振盪を受傷した疑いがあった場合は『再び交代で試合に戻ることなし』に試合から退かせることで、競技者を保護する。競技者の安全や安心を優先することによって競技者のチームが数的不利益を被らないようにすべきであることに強く同意する」などと表明。これを受け、Jリーグも21年シーズンから育成年代も含めたすべての公式試合とプレシーズンマッチで「脳振盪による交代」を導入することを決定した。

ルールは、

①1試合につき各チーム最大1人の「脳振盪による交代」を使うことができる。

②「脳振盪による交代」は、何人の交代が行われたかにかかわらず、行うことができる。

③交代要員の数が交代の最大数と同じ競技会では、既に退いた競技者でも「脳振盪による交代」で競技者になることができる。

-が原則。

ただし、「脳振盪による交代」を「通常の」交代に合わせて行った場合には、1回の「通常の」交代としてカウントされる。

今回の金鎮鉉の交代も、このルールに基づいて行われたもので、何ら問題はなかった。さらに言及すれば、日本サッカー協会は医療関係者向けに「競技中、選手に脳振盪の疑いが生じた場合の対応」マニュアルを定めており、その中で

①競技中、選手が頭頸(とうけい)部を強く打ったと主審が判断した場合、主審はすみやかに当該選手のチームドクターをピッチ内に呼び、チームドクターは診断をする。主審の判断、またはチームドクターからの要請を受けた主審からの合図により、ハードボードの担架を適宜ピッチに入れる。

②チームドクターは、当該選手に脳振盪の疑いがある場合、自分の拳を頭の上に乗せ、主審に「脳振盪の診断を始める」旨を伝える。

③それにともない、主審は時間の計測を始め、最長3分間を診断の時間として認める。

④チームドクターは、脳振盪評価用紙などを使用するなどし、適切な診断を行う。

⑤早くに診断が終わった場合には、その時点で試合再開とする。3分間を超えても、診断が終わらなかった場合、主審は当該選手を一旦ピッチ外に出し、プレーを再開させ、チームドクターは引き続きピッチ外で診断を行う。

⑥主審は、チームドクターの許可がある場合に限り、選手が競技に復帰することを認める。

⑦主審は、脳振盪の診断のために使用された時間を把握し、その時間を通常のアディショナルタイム(ロスタイム)に追加する。

-の手順が明記されており、専門的な判断に基づく、適切でスムーズな処置が求められている。

1点のリードを守るための時間引き延ばしではないか-との指摘はまったく的外れである。

記憶飛び、翌々日まで続いた頭痛

試合後、日本サッカー協会が定めた「脳振盪からの復帰プログラム」にのっとって自宅で休養していた金鎮鉉は11日にピッチでの練習を再開。全体練習とは別メニューで軽めの調整を行った金鎮鉉は報道陣の取材にも応じて「落ちた後、しばらく意識がなかった。(試合翌々日の)日曜日(=8日)ぐらいまでずっと頭痛があった」と明かした。後半途中にピッチに入った選手のことも覚えていなかったといい、試合中の記憶が飛んでいたという。

「周りに脳振盪で大変になった人も知っているしね」と金鎮鉉。C大阪は同日、金鎮鉉の診断結果を「脳振盪および左肩鎖関節脱臼」と発表した。

「状態と復帰プログラムの完了具合を見てから(出場させるかどうかを)決めたい」と話していた小菊監督は結局、14日に豊田スタジアムで行われた名古屋戦で金鎮鉉を先発起用した。試合は0-1で敗れたが、1週間あまりで脳振盪から復帰を果たした金鎮鉉は最後までピッチに立ち続け、自身が持つ外国籍選手最多出場記録を336試合に伸ばした。

目先の「記録」よりも「人生」を優先させた当然の判断が、「鉄人」のJリーグでのキャリアにプラスに働くのは間違いない。

  1. ダルビッシュ、大谷を絶賛「本当にすごいなとしか言いようがない」

  2. NHK「ちむどんどん」賢秀(竜星涼)、矢沢永吉の名曲熱唱に朝ドラファン興奮「アテ書き」「ニーニーの時間は止まらない」

  3. NHK朝ドラあすの「ちむどんどん」8月12日OA第90話あらすじ 暢子(黒島結菜)と和彦(宮沢氷魚)の披露宴、賢秀(竜星涼)の出席が危うくなり…

  4. 【許さない 未解決事件のいま】(3)ポツンと一軒家の惨劇 私的懸賞で解決願う長男 茨城高齢夫婦殺害

  5. 「蓮舫氏は公人を辞めるべきだ」 二重国籍解消公表した自民・小野田紀美氏に直撃