書評

『天皇・コロナ・ポピュリズム 昭和史から見る現代日本』筒井清忠著 今と酷似 戦前の大衆社会

産経ニュース
筒井清忠著『天皇・コロナ・ポピュリズム』(ちくま新書)
筒井清忠著『天皇・コロナ・ポピュリズム』(ちくま新書)

「歴史に学べ」と何度も繰り返されてきた。むろん、実際に学ばれていないから、そう繰り返す必要があったわけだ。

だが、コロナ禍とウクライナ戦争の「非常時」に際し、より切迫した危機意識から私たちは本書で歴史に学ぶべきだ。著者は現状を「1930年代の再来」と見た上で、すでに「戦前」から存在していたポピュリズムの脅威に警鐘を鳴らしている。

これまで「天皇制ファシズム」と呼ばれることもあった大衆社会現象が、本書では「戦前型ポピュリズム」として再検討されている。こうした論理的な分析概念によって、昭和史は現代日本の課題として浮上してくる。

なるほど、今日の象徴天皇制の起源が英国モデルの「戦前」にあるとすれば、統帥権干犯問題も天皇機関説事件も大衆動員にむけた「天皇シンボル」をめぐる諸勢力の抗争として理解できる。こうした政治の大衆化に対して、近衛文麿や木戸幸一ら天皇周辺のエリートたちも歯止めとはならなかった。彼らも平等主義的「革新」を唱えて、自らポピュリストを演じていた。その帰結が政党政治の終焉(しゅうえん)、すなわち大政翼賛会体制である。

この大政翼賛会の選挙スローガンが「出たい人より出したい人」であった。それこそが現代日本の「政党支持層の少ない政党政治」、つまりメディア仕掛けの内閣支持率政治の病根であることは明らかだろう。

ならば、コロナ「緊急事態」への反応が、昭和10年代の国家総動員法成立状況と酷似していても不思議ではない。名ばかりの立法よりも、過剰同調・相互監視が日本社会では威力を発揮する。以下の引用が象徴的だ。

「戦時中には軍と警察が恐しかったと言われているが、私の実感としては隣り近所の人の眼の方が恐しかった」(吉村昭)

コロナ対策の専門家会議も、つまるところ「近所の人の眼」に頼ったのではなかったか。

こうした大衆世論の危うさは、マスメディアが登場した大正期から今日まで連続している。その意味でも「大正デモクラシー」と「戦前軍国主義」に断絶は存在しない。太平洋戦争はマスメディアにとっても「平等主義による〝正しい考え方による正しい戦争〟」だったことを忘れてはならないだろう。(ちくま新書・880円)

評・佐藤卓己(京都大教授)

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