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論説委員・井伊重之 省益ではなく国益を守れ

産経ニュース
ロシア・クラスノヤルスク北にある油田=2015年3月(ロイター=共同)
ロシア・クラスノヤルスク北にある油田=2015年3月(ロイター=共同)

「エネルギー資源の大半を輸入に頼るわが国としては大変厳しい決断だが、主要7カ国(G7)の結束が何よりも重要な時だ。このため、ロシア産石油の原則禁輸という措置を講じることにした」

岸田文雄首相は記者団にこのように述べ、従来の日本政府の方針を転換し、ロシアからの石油輸入を原則禁止することを明らかにした。

日米欧のG7首脳は9日開いたオンライン会合で、ロシアによるウクライナ侵略への追加制裁として、ロシア産石油の原則禁輸で合意した。先月決めた石炭禁輸に続き、今度は石油禁輸でも足並みをそろえ、ロシアの収入源を絶つのが狙いだ。

露産石油の禁輸で合意

これまで日本は、ロシアからの資源輸入の禁止に慎重姿勢だった。欧州連合(EU)が提案したロシア産石油の禁輸についても、萩生田光一経済産業相は「日本の資源には限りがあるので、他の国々とすぐに歩調を合わせるのは難しい」と否定的な見解を示したばかりだった。

エネルギー調達先の多様化を進めてきた日本にとって、ロシア産の資源の調達禁止は大きな打撃だ。

それでも武力で主権国家を踏みにじるロシアの戦費調達に協力する資源輸入に対し、岸田氏を含めたG7首脳が断固拒否する姿勢を明示したのは当然の政治判断である。

しかし、萩生田氏はこの判断が不満のようだ。10日の記者会見では「(ロシアに対して)勇ましいことを言う人がたくさんいるが、国民生活や経済を守らないといけない」「結果としてエネルギー価格の高騰がついてくる。どこかできちんと説明しないと国民の理解を得られない」などとこぼすありさまだ。禁輸の目的を国民に説明し、その影響を極力回避するのが経産相としての責務だろう。

今回の石油禁輸は、石炭禁輸よりも日本への影響が大きい。国内でロシア産が占める割合をみると、石炭が約11%なのに対し、石油は約4%にすぎない。しかし、この石油禁輸は日本が国家プロジェクトとして進めてきたロシア極東の資源開発事業「サハリン1」からの輸入も制裁対象に加わるからだ。

欧米メジャーは撤退

日本のエネルギー企業は、ロシアで原油採掘のサハリン1と液化天然ガス(LNG)生産のサハリン2に参加している。サハリン1は、中東への依存低減を目的に経産省と伊藤忠商事、丸紅、石油資源開発、INPEXが共同出資する「サハリン石油ガス開発」が30%の権益を持つ。一方のサハリン2には三井物産と三菱商事が参加している。欧米のメジャー(国際石油資本)は、サハリン1、2を含むロシア事業からの撤退をいち早く決め、多額の損失を計上している。岸田氏はサハリン事業の権益は維持する方針を示したが、これは日本が今後もロシアに資金供給することを意味する。国際社会の理解を得られるのか。

今回のG7首脳声明では「エネルギーのロシア依存脱却」とも明記した。各国の事情で段階的な禁輸を認めるが、最終的にはロシアからのエネルギー調達の全面停止が目標だ。代替調達が難しいLNGを生産するサハリン2からの輸入禁止を迫られるのも時間の問題だろう。

すでに民間ではロシア産の石炭や石油の購入を見送り、他国から代替調達を進めている。サハリン1に参加する丸紅も「できれば撤退したい気持ちはあるが、政府が撤退しない方針を示しているので、それに従っていかざるを得ない」としている。経産省の頑固な姿勢が民間企業の手足を縛っている構図だ。

財務省は撤退を「要請」

その政府内でもロシア事業の撤退を求める声が出ている。財務省が筆頭株主の日本たばこ産業(JT)は3月、株主総会を開催した。そこで同省側は経営陣に「難しい問題はあるが、適時適切に判断してほしい」としてロシア市場からの撤退を暗に求める異例の注文をつけた。

JTはロシア市場で4割近いシェアを持つトップ企業だ。同国関連は営業利益の2割を稼ぎ出すドル箱だが、外国企業がロシアから相次いで撤退する中で、同省は今後もJTがロシアでのビジネスを続けるのは難しいと判断した。この発言を受け、JTは撤退を含めてロシア事業の見直しを急ぐ構えだ。

民間企業がロシア事業を継続するには、株主への説明も求められる。経産省は省益ではなく、先進国の一員としての日本の国益を守る冷静な判断を下してほしい。(いい しげゆき)

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