旅行に外食もいいけれど、家庭で郷土料理作りに挑戦し、各地の食文化に触れてみませんか。本日から11回にわたり、毎週土日の午前11時に、地元の記者がお薦めのレシピを紹介していきます。
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春を呼ぶタケノコと豆腐を炒めたみそ汁「筍腐(じゅんぷ)汁」。質素ながら、菜種油やゴマ油で炒めた格別な風味が特長だ。栃木の郷土料理とされ、今でも栃木県日光市や同県芳賀町など一部地域で受け継がれている。
筍腐汁のいわれははっきりしていないが、食材卸販売・食品加工「浜亀」(日光市)のホームページによると、「昔、狩りの好きな殿様が、のどの渇きから山久保(日光市の地名)の民家に立ち寄り、いろりにかかる筍腐汁をごちそうになりました。殿様は大変お気に召し、絶賛しました。それから、狩りに出る度に民家を訪ねた」とある。
その後は「お坊さんたちにも広がり、湯葉とともに精進料理として郷土の食文化が引き継がれている」とのことで、春の山菜の季節には、アクの強いタケノコやウド、根みつばなどの山菜をアク抜きをしないで油で炒めて作る。
料理研究家の臼居芳美さんに筍腐汁を再現してもらった。臼居さんは十数年前に日光市の知人宅で筍腐汁を食べさせてもらい、「タケノコの素朴な味が楽しめる」とほれ込み、タケノコの旬の時期になると毎年のように作っているという。
臼居流はタケノコをアク抜きし、ゴマ油で香りを、アクセントとしてサンショウの葉を添える。臼居さんは「タケノコと豆腐の組み合わせは簡単だけどあまりない。ここがおもしろい」と魅力を語る。
「日光山秘話 知られざる日光の歴史を辿(たど)る」(随想舎)を3月に出版した、日光山興雲律院の中川光熹住職(84)によると、筍腐汁は日光市内の寺や一般家庭などで食べられていた。同院では、野生鳥獣による被害のためタケノコが収穫できず、15年ほど前から作っていないという。
しかし、芳賀町の小学校で給食メニューに採用された事例もある。特色ある郷土料理を伝える機会は少しずつ増えている。(鈴木正行)
【材料】(2人分)
タケノコ 200グラム
木綿豆腐 300グラム
ゴマ油 大さじ2
だし汁 3カップ
白みそ 適量
サンショウの葉(ネギ、ミツバでもよい) 適量
【作り方】
①ゆがいたタケノコを食べやすい大きさの薄切りにする。
②鍋にゴマ油を熱して①のタケノコを炒める。
③豆腐を手でちぎって加える。
④油がまわったらだし汁を加える。沸騰したら2、3分中火でゆでる。そこに白みそを加えて火を止める。
⑤器に入れる。サンショウの葉をちらす。