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完全数が結んだ親子の絆 「博士の愛した数式」小川洋子(新潮文庫)

産経ニュース

この小説を手にしたのは離れて暮らす息子へのLINEがいつも既読スルーされてしまうからだった。息子は理系の大学院生。数学が好きなので返信を期待して読後感でも送ってみようと思ったのだ。数字の魅力と人の絆、野球愛が絶妙に融け合うこの名作に思いを乗せて。

「君の靴のサイズはいくつかね」。事故で記憶が80分しかもたない元大学教師の数学博士が家政婦の「私」にこう問いかける。博士が語るのは数字や数式への偏愛だった。ある日、誕生日を尋ねられた「私」が「二月二十日です」と答えると、博士は学長賞でもらった腕時計の「284」という数字を見せた。語り始めたのは「220と284」の深い関係について。

284の約数の和は220で220の約数の和は284。この二つの数字が「友愛数だ。滅多に存在しない組合せだよ」「神の計らいを受けた絆で結ばれ合った数字なんだ」

博士は「私」の10歳の息子に果てしない愛情を注ぐ。まるで数が無限であるかように。息子の頭の形から「ルート」と呼び、いつも強く抱擁し、丁寧に話を聞き、励まし、褒める。ここは教員だった自分が一番好きな場面だ。

博士もルートも大の阪神ファンだった。3人で球場へ足を運び、博士は野球と数字について興味深い話を披露する。博士はとりわけ江夏豊のファンなのだ。背番号28は約数を足すと28になる「完全数」だった。3人の日々は過ぎ、やがて博士の体内時計は静かに狂い始める。

うちの娘もルートと同じ9月11日が誕生日。親近感が増した。911は博士が最も愛した「素数」だ。そして息子に送ったLINEには「今日は28日、完全数の日だ」と付け加えた。返信があった。そこには息子が完全数を知ってわくわくした日のことが書かれていた。

奈良県橿原市 上田龍男(59)

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