昨年9月の自民党総裁選で「経済安全保障」を訴えたのは、岸田文雄首相、ただ一人だった。今でこそ、世界的な新型コロナウイルス感染や、ロシアによるウクライナ侵攻を受けたエネルギーや食料の高騰など、「経済安保」に関する議論が盛んに行われるようになったが、当時はさほど注目される論点ではなかった。
岸田氏の「先見の明」は、もっと高く評価されてしかるべきだろう。
一方、岸田政権の党内基盤は脆弱(ぜいじゃく)である。何しろ、総裁選では決選投票までもつれこんだ末の当選だったのである。そこが、圧倒的な票差で選出された安倍晋三元首相や菅義偉前首相と違うところだ。
政権を支える主流派も、1回目の投票から岸田氏を支持したグループと、決選投票で支持に回ったグループとの混成チームだ。とても、「右向け右」で号令をかけられる状況にはない。
そのためか、岸田氏の政権運営は慎重である。党内各派や国民世論の動向など、八方への目配りを欠かさない。時にはメンツにこだわらず、方針転換もいとわない。「我慢」と「辛抱」の政権運営といっていい。
そんな岸田氏が最重点に位置付けるのが7月の参院選である。何としても勝利し、党内基盤を固めたいところだろう。