新型コロナウイルスの収束が見通せない中、高齢者らを在宅で介護する訪問介護の現場が苦境に直面している。ホームヘルパーにも高齢者が多く、重症化リスクと隣り合わせだ。一時的に事業を休止せざるを得ないケースもあり、関係者は感染「第7波」へ危機感を募らせる。
「あのときはついに来たか、と頭を抱えました」。大阪市東淀川区で訪問介護事業所を運営する60代の女性が振り返る。2月下旬、ヘルパーの同居家族が感染し、ヘルパー自身が濃厚接触者に。コロナ禍以降、濃厚接触者となる職員は1人もいなかったが、オミクロン株による第6波のさなかだった。
約20人いるヘルパーは検査の結果、全員が陰性だったが、自主的に3日間休業。寝たきりの高齢者ら200人近い利用者を抱えるだけに、大事をとってこの間の介護は、つてのある他の事業者に依頼した。
3月下旬には、事業所が担当する80代夫婦のうち、夫が感染。妻は認知症のため、女性は何度も電話をかけて男性を診てもらえる病院を探した。ヘルパーが感染しては影響が大きすぎるとして自ら診察に付き添ったという。
利用者を感染させないことを第一に気をつけているが、1日に何軒も回る介護現場は綱渡りだ。入浴や食事の介助など利用者がマスクを外す場面が多いだけでなく、体の向きを変えたり、起こしたりと密を避けるのは難しい。コロナ禍でヘルパーの負担が増大しており、女性は人手不足に悩む事業所も多いと聞く。
ヘルパーの高齢化も深刻で、感染時の重症化リスクも懸念される。令和元年版の介護労働実態調査(全国労働組合総連合)によると、ヘルパーの平均年齢は55・5歳だが、雇用形態の過半数を占める登録型の非正規に限ると58・7歳で、65歳以上は約3割(60歳以上は51%)。平成25年度の前回調査から登録型の平均年齢は3歳上がった。
大阪府内では、第6波で高齢者施設でのクラスター(感染者集団)が多発。府は対応強化チームを新設するなどしたが、訪問介護事業への支援を求める声は切実で、府は今月中旬から衛生用品の購入費を補助する。
厚生労働省によると、府内の訪問介護事業所は令和2年10月現在、約5千カ所で全国最多。うち半数を大阪市内が占める。市は昨年春、感染者が出るなどし事業継続が困難な場合、当該の事業所から相談を受ければ、協力できる事業者を紹介する支援制度を設けた。
だが、介護従事者らでつくる大阪市介護支援専門員連盟は「周知不足が否めない」と指摘。在宅療養の支援を行う介護事業者に対する相談窓口の設置や、区ごとに事業所の運営をサポートする体制構築なども提言している。(北野裕子)