さて、ひろさちやさんの訃報には、「葬儀は行わない」と書かれていました。ひろさんは生前、葬儀どころか、「お墓は不要。遺骨は抜け殻に過ぎない」と散骨を希望されていました。
昔の日本人は、遺骨に関心がなかったそうで、野ざらしにしていました。お墓を重要視するようになったのはここ50年ほど、火葬が普及してからだとか。
以降、日本人は遺骨≒霊が宿っていると考えがちですが、仏教では、死者はお浄土にいると考えます。だから遺骨なんてもぬけの殻。捨ててしまえばいいんだよ、と。まさに「千の風になって」の世界観です。
コロナ禍によって、お墓参りに行けなくて悩んでいる人や、墓じまいを考えている人はぜひ、ひろさんの著書を読んでみてはいかがでしょうか。
仏教の本来の考え方が、近年のお寺ビジネスによって、もみ消されていくのは悲しいことです。坊主と医者の往生際の悪さを、ひろさんはずっと前から見抜いていたのかもしれません。
■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。