書評

『朱色の化身』塩田武士著 史実背景に女の半生描く

産経ニュース
『朱色の化身』
『朱色の化身』

虚構の物語を紡ぐために、現実の情報とどう切り結ぶか。塩田武士はこの難題に挑み続けている作家だ。塩田は昭和54年、兵庫県生まれ。神戸新聞社に勤務し、平成22年に『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞。同作は翌年に第23回将棋ペンクラブ大賞に選ばれた。24年に専業作家に転じ、28年に『罪の声』で第7回山田風太郎賞、31年に『歪(ゆが)んだ波紋』で第40回吉川英治文学新人賞に輝いている。

将棋担当記者の経験を生かしたデビュー作、グリコ・森永事件における脅迫電話がモチーフの『罪の声』など、塩田には丹念な取材に基づく作品が多く、社会派のテーマを扱うことも少なくない。そんな著者の最新長編『朱色の化身』は、実在の事件とフィクションを結びつけ、一人の女性の人生を浮き彫りにするリアリズム小説だ。

構成を簡単に紹介しよう。序章「湯の町炎上」では、昭和31年に福井県の芦原(あわら)温泉で起きた現実の火災が描かれる。温泉町が壊滅した史実を冒頭に置くことで、リアルと虚構の境界が曖昧化されるわけだ。

第一部「事実」には12人の証言が並んでいる。ライターの大路亨はがんを患う元新聞記者の父の依頼を受け、亡き祖母が60年以上前に調査していた女の孫であるゲームクリエイターの辻珠緒を探すことになった。行方不明の珠緒の足取りを追うため、亨は関係者たちに話を聞く。その際に得られた証言集という体裁である。

第二部「真実」では視点が三人称に切り替わり、亨が珠緒の過去と苦悩を知るまでがたどられる。終章「朱色の化身」は物語を着地させる後日談だ。

他者の言葉で女性の人物像を浮き彫りにするプロットは、宮部みゆきの『火車』を彷彿(ほうふつ)させる。惨劇の背景から東野圭吾の『幻夜』を思い出す人もいるだろう。すなわち本作は骨太のミステリーにほかならない。

版元のサイトに公開されたインタビュー動画では、断片から人物像を編む手法、風化することの怖さ、ネットゲーム依存の深刻さ、個の報道の重要性といった本作のテーマが明かされている。膨大な資料と課題に対峙(たいじ)し、約300ページに凝縮させた会心の一冊である。(講談社・1925円)

評・福井健太(書評家)

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