日の出から日没まで飲食が禁じられるイスラム教のラマダン(断食月)が4月初旬に始まった。駐在するエジプトではこの時期に家族や友人が集まる習わしがあり、テレビのドラマシリーズが多数放映される。今回の注目株の一つはイスラム原理主義組織、ムスリム同胞団と軍の抗争を扱ったドラマ「選択」だ。
同胞団は2012年の選挙をへて政権の座に就いたが、軍出身のシーシー国防相(現大統領)らが翌年に憲法を停止して政権を崩壊させ、同胞団を徹底弾圧した。ドラマは当時の政治情勢を同胞団批判の立場から描いており、「シーシー氏役の俳優が好演している」(首都カイロの20代男性)という声も聞いた。
エジプトのネットニュースサイトによると、下院の議員らは「子供たちの愛国心を養う」などとこのドラマを称賛し、「もっとこうしたシリーズを製作すべきだ」との声も出た。下院は親シーシー勢力が多数を占めている。
高視聴率が見込まれるラマダンに合わせた同胞団ドラマ放映に、組織を壊滅に追い込んだシーシー政権の自信と、「原理主義になびくことは許さない」という国民へのメッセージがうかがえる。エジプト人の知人は「時間をつくってまで見る気はしない。内容は見なくても分かるから」と話した。(佐藤貴生)