「さわやかアルト 47万円!」。このフレーズに聞き覚えのあるのは50歳以上の方だろうか。昭和54年にデビューしたスズキ・アルトは、価格破壊の先駆けだ。徹底的なコストカットでラジオや時計はもちろん助手席ドアのカギ穴も省略し、84万台を売り上げた。軽人気を確立したアルトの9代目がデビュー、94万円からの価格設定は初代の志を受け継ぐ庶民の味方。軽というジャンルを不動のものとした〝先駆車〟アルトの最新モデルに試乗した。(土井繁孝、写真も)
初代アルトのデビュー当時、大卒初任給は11万円ほど。今年就職の新人が平均23万円というから94万3800円は相当にがんばった値段だろう。
昭和と違い、今はエコ対策や安全装備が欠かせない。燃費の向上、エアバッグなどの費用もかさむ。
さらにこの値段は消費税込みの価格で、税抜きなら85万8千円、どうやったらこの値段でクルマ1台作れるのか不思議なほどだ。
予防安全技術は上級グレードとほぼ同じで、エアコンも標準装備。さすがにナビやオーディオはオプションだが、バックアイカメラ付きディスプレイオーディオが5万5千円とお手頃で、ナビはスマホの地図アプリと連携できる。
今回、試乗したのはマイルドハイブリッドが搭載された高級グレード。価格は126万円とやや高価だが、32万円分の価格アップに見合った装備が付く。
ハイブリッドの効果もあり燃費は27・7キロと軽自動車ナンバーワンを誇り、エアコンはフルオート、ヘッドライトもLEDを採用する。
試乗では、あえて街中の狭い路地を選んで、奥へ奥へと進んでみた。行き止まりになったとしても、4~5回切り返せばUターンできてしまう。これが3ナンバーの大型車なら途方に暮れるところだ。
〝走れない道はない!〟。そんな気分にさせてくれる軽快な乗り心地は、バイクのような気軽さで運転を楽しめる。
後部座席も、コンパクトなボディーからは想像できない開放感で、身長188センチの筆者でも頭上や足先に余裕がある。定員4人なので、1泊2日程度の旅行なら荷物を積んでも大丈夫だろう。
サイズは小さいが、ボディー剛性はコンパクトカーに勝るとも劣らない。路面からの突き上げ感を感じるものの、カーブでも安定した挙動で安心感がある。
ただ、走りを楽しむという点では、やや物足らない。先代まで設定されていたアルト・ワークスがラインアップから外れたのは残念だ。
ハイトワゴンが全盛の時代にあって、セダンスタイルのアルトが、デビュー当時のような人気を得ることはないだろう。とはいえ、この扱いやすさはライバル不在といっていい仕上がり。
今はまだスポーツカーに魅力を感じる世代も、年を重ねて大きなボディーに不安を感じるようになったとき、こんなクルマがあればいいなと思える1台。まさに〝下駄代わり〟の働きをしてくれるやさしいクルマだ。
(次回はグランドチェロキー)