ザ・インタビュー

入管行政を問う家族小説 作家・中島京子さん著『やさしい猫』

産経ニュース
「重い題材なので、暗すぎると読んでもらえないんじゃないかと考えました」と語る中島京子さん(松井英幸撮影)
「重い題材なので、暗すぎると読んでもらえないんじゃないかと考えました」と語る中島京子さん(松井英幸撮影)

スリランカ人男性と日本人シングルマザーの恋愛を通じて入管行政の問題点を描き、今年、第56回吉川英治文学賞を受賞した。重いテーマでありながら、家族の歴史を丁寧に積み上げることで、共感できる愛の物語に仕上げた力作だ。

物語の語り手は女子高生のマヤ。マヤの母親であるミユキさんは、スリランカ人のクマさんと出会い、恋に落ちる。2人は結婚するが、クマさんは不法残留で、入管(東京出入国在留管理局)施設に収容されてしまう。ミユキさんたちは、在留許可をめぐる裁判でクマさんを取り戻そうとするが-。

きっかけは数年前、知人の弁護士の交流サイト(SNS)の投稿だった。入管施設で収容され、亡くなってしまう人がいることを知った。「病気だったのに入院もさせてもらえない。国の施設でそんなことがあるのかとすごくびっくりしました」

ちょうど新聞連載の依頼が来ていた時期。元入管職員や弁護士、実際に収容されている人などさまざまな人から話を聞いたが、小説化にはハードルも感じていた。「非正規滞在の外国人の方のお話を知ってほしいと考えたのは確かですが、社会問題を身近に知らせるために小説を書くという発想は私にはありません」

小説としていかに作品にするかが課題だった。調べるうちに、在留資格のない男性と日本人の恋人が引き裂かれた事件を知った。「ラブストーリーや家族の物語という形であれば小説として成り立つと思ったことでスタートできました」

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入管行政というなじみのないテーマを執筆するにあたり、マヤの存在は大きかった。「普通の人は在留資格も仮放免も知らないですが、それを分からないと読んでもらえない。若い語り手にして、マヤが分かったことを書く。分からないと誰かが説明してくれるというスタイルにしました」と明かす。

物語は、マヤが小学生のころから始まる。クマさんとミユキさんの距離が近づく様子やすれ違い、3人で過ごした日々が細やかに描かれるが、後半は一転して絶望的な状況に陥る。入管施設に収容されたクマさんは、体調を崩してもなかなか病院に行けず、弱っていく。だが、過酷な出来事も、マヤの視線を通すことで温かな読み心地につながる。

印象的だったのが、クマさんとミユキさんの出会いだ。2人の初対面は東日本大震災の被災地でのボランティアだった。

「震災では外国の方がボランティアに行かれていました。日本で一緒に生きていることの具体的な表れ方。象徴的な気もしたので作品に取り入れました」

物語の執筆には、不思議な縁を感じたという。「きっかけはあったけれど、自分の中でもなんでこれを書いたのかよく分からないところがあるんです。(日本で暮らす外国籍の人の話という)題材自体が世に出たがっていたんじゃないかな、という気がしています」と振り返る。

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認知症を患った父親との日々を描いた『長いお別れ』、戦争の影が落ちる東京でのある家族の暮らしを女中の視点からつづった直木賞受賞作『小さいおうち』…。深刻な題材でも優しい語り口で提示する温かな世界観が特徴だ。

「ユーモアのある小説が好きです。つらい現実を軽く、明るくしてくれる心理的効果がある。『人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇』というチャプリンの言葉は、真実をついているところがある。私はあまり、クローズアップは書かないですね」

来年で作家デビュー20年。「作家は若くなければできないという仕事ではない。自分が死んだ後に代表作って言われるものをまだ書いていないかなって思いますし、コツコツ書き続けていくしかないですね」(油原聡子)

3つのQ

Qリフレッシュ方法は?

料理です。クリエイティブな作業ですし、手や体を動かすので、頭が切り替わります

Qコロナ禍で始めたことは?

植物を育てるようになりました。スリランカ料理を習っていたこともあって、カレーリーフを育てています

Qコロナが落ち着いたら行ってみたい場所は?

姉が南仏に住んでいるので会いに行きたいです。お天気が良くていいところだと聞いています

なかじま・きょうこ 昭和39年、東京都生まれ。出版社勤務、フリーライターを経て、平成15年、『FUTON』でデビュー。22年、『小さいおうち』で直木賞を受賞。令和4年、『やさしい猫』で吉川英治文学賞。

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