ロシアによるウクライナ侵攻は、第二次世界大戦後の国際秩序を根底から覆した。核大国であり、国連安全保障理事会の常任理事国による暴挙は「国連の機能不全」を白日の下にさらし、日本は安全保障政策の抜本的見直しを迫られている。憲法前文に記されているような〝ユートピア的理想主義〟で、国民の生命と財産を守り切ることができるのか。安倍晋三元首相は連載「日本の誇り」で、侵攻開始から1カ月半以上過ぎたウクライナの惨状を踏まえて、憲法前文の問題や、憲法9条への自衛隊明記の重要性、国家意思を示す意味もある防衛予算増などについて語った。
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ロシア軍による残虐行為が連日報じられている。欧米メディアが流したウクライナ首都キーウ(キエフ)近郊ブチャなどの映像は凄惨(せいさん)極まるものだ。多くの方々が衝撃を受けたのではないか。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「これは戦争犯罪であり、世界でジェノサイド(民族大虐殺)として認識されるだろう」とロシアを強く批判した。ロシアは「でっち上げだ」と否定している。
国際刑事裁判所(ICC)は「戦争犯罪」と「人道に対する罪」の疑いで捜査を開始した。ロシアもウクライナもICCの締結国ではなく、訴追は簡単ではないだろう。ただ、国際機関が徹底的に捜査して証拠を集め、「戦争犯罪」を立証する動きは重要だ。
ウクライナ侵攻で明確になった国際社会の現実を受けて、わが国の憲法が改めて注目されている。前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持(する)」という記述が、「夢物語ではないのか」と議論になっている。