新型コロナウイルス感染拡大により、初めて発令された緊急事態宣言の対象地域が47都道府県に拡大されてから、16日で2年となる。この間、密を避けるなどのニューノーマル(新常態)の行動が定着してきたが、来店者数が減少する関西の百貨店では、宅配サービスを充実させてきた。ブランド力を生かしながら、常連客だけでなく、これまで店舗を利用していなかった客の取り込みにも力を入れる。
■店側からのアプローチ
「従来のようにお客さんを待つのではなく、店側からアプローチする新たな販売方法だ。リピーターも多く客単価も伸びている」
大丸梅田店(大阪市北区)の担当者が自信を持って語るのは、昨年10月から始めた地下の食品売り場(デパ地下)の総菜やスイーツなどの宅配サービスの急成長ぶりだ。宅配代行大手の出前館と提携しており、配送料が必要で、対象は同店から配達員が30分以内で届けられる範囲に限られるものの、今年3月の時点での客1人当たりの消費額は、サービス開始当初と比べて約20%増えた。
注文主は、感染を警戒して来店をためらう常連客から、近くのタワーマンションに住む富裕層、外食の代わりに社内で会食を開く会社など幅広い。今後、同店では品ぞろえを現在の倍の約200種類に増やす方針だ。
3月には大阪府などに適用されていたコロナ対策の蔓延(まんえん)防止等重点措置が解除され、街の人の流れは活発化したが、宅配サービスの人気は衰えない。担当者は「百貨店から足が遠のいていた高齢者や、これまでデパ地下に関心がなかった客の利用も多く、買い物の仕方の新たな選択肢として定着しつつある」と話す。
■丁寧接客で囲い混み
ライバル店も同様のサービスを展開する。あべのハルカス近鉄本店(同市阿倍野区)は昨年2月から客が売り場に電話して希望商品を販売員に伝えて注文する「でんわdeオーダー」を開始した。商品はスマートフォンでの決済後3~7日後に、指定した住所に届けられる。婦人服や化粧品、宝飾・時計などあらゆる商品が購入可能だ。
接客のプロの販売員が直接、丁寧なやりとりをすることで顧客を囲い込もうという、百貨店のノウハウを生かした戦略だ。
また、阪急うめだ本店(大阪市北区)は自宅や外出先からスマホで店の商品が買える「リモオーダー」を令和2年3月から始めた。昨年度の売上高は毎月約1億円で推移し、累計では前年比約2・5倍を記録した。担当者は「店内での長時間の滞在を避けるため、決済を事前に済ませて店舗で受け取るニーズも高まっている」としている。また、こういった宅配サービスは、百貨店側にとっても、密を避けるための感染対策を兼ねる利点がある。
じわり広がりつつある百貨店の宅配サービス。帝国データバンク大阪支社の昌木裕司・情報部長は「東京に比べて、大阪は百貨店と消費者の居住地域が近いため、宅配サービスが定着しやすい下地がある」と指摘。「デリバリーサービスが林立する中でも、百貨店ブランドの優位性を生かして新たな消費者の需要を取り込むチャンスだ」と話している。(井上浩平)