現役時からボイトレ
「相撲甚句を歌うことが、相撲界への恩返しです。これをきっかけにお客さまが相撲を見にきてくれればという思いですよ」
昨年末、CD「大至の相撲甚句」(キング)をリリースした。相撲甚句とは、地方巡業や花相撲で披露される囃子歌。古典から新作まで織り交ぜた甚句の世界は、実は力士たちの切ない世界を描いているのだ。
「相撲甚句っておめでたいですよねといわれますが、意外とおめでたい歌詞は少ないんです。苦労して関取になったときには母はもう死んでいたとか、厳しい稽古に涙するとか。相撲って黒白をつける勝負の世界ばかりじゃないんですよ。力士の暮らしぶりが分かっていただければ」
幼いころから歌手になるのが夢だった。それは力士になった後も変わることがなかった。だから、稽古にも気を使った。大切な喉を傷めたくなかったからだ。
「稽古で喉輪とかされたら大変ですから、喉だけは攻めさせないように必死でしたよ。後輩に胸を貸すときに『さあ来い!』なんて言うのも喉がかれないように気を使いました。実は現役のころからボイストレーニングに通っていたんですよ。だから、稽古場でもオペラ歌手のように『さああ、こ~い』なんて高らかに…。ハハハ」
それほどまで歌手になりたかった少年がなぜ相撲の世界に入ったのか。
「もう洗脳されたとしか言いようがないです。父は生まれる前から男の子なら力士だといい、母も妊娠中からジャンジャン食べたので、4270グラムで生まれてきたそうです。子供のころ、隣家から聞こえてくるピアノの音に、僕もピアノをやりたいと父に伝えると『そんなことはやらなくていい! 相撲をやっとけ!』なんて怒られましたよ」