暦が4月になると、あちこちの家では端午の節句を待ちわびているのか、早々とこいのぼりが泳いでいる。
この時期になると九州の実家では、母と兄嫁は恒例の「あくまき」を作る準備を始めていた。あくまきは、もち米を竹の皮で包み灰汁(あく)で炊いた、味も風味も独特な食べ物だ。
以前勤務していた職場で、あくまきと中華ちまきのことで話が盛り上がった。
あくまきを知る人は少なく、味の説明をするのも難しい。1人の同僚が興味を示した。職場で試食をすることとなった。
竹の皮の包みを開けるとプルンとした茶色の食べ物に友は驚き、そこから放つ匂いにもまた驚いた。
たっぷりのきな粉と砂糖をかけ、恐る恐る口にしてくれたが、最後まで美味とは言ってもらえなかった。
故郷の端午の節句には欠かせない。他のごちそうと肩を並べ祝いの席にも出てくる、存在感のある食べ物なのだ。
公園のハナショウブが咲く頃には、実家からたくさんの野菜とあくまきが送られてきていた。
それも毎年の楽しみであったが、今では2人の作り手は家族の皆に惜しまれながら天国へ行ってしまった。
母と兄嫁が作ってくれた故郷の味は、暦が4月になると、ふしぎと恋しくなる。
内山久美子(74) 大阪府吹田市