だが、美由紀さんは当初、晋一さんが雇用延長すると思っていた。60歳の定年時にいきなり合流を相談され、びっくりしたそうだ。その理由を晋一さんは次のように言う。
「日本人の2人に1人ががんになると言われます。仕事とがん治療の間で苦しむ人は今後もっと増えるでしょう。企業も人材を失いたくないはず。そこで、自分の経験を生かし、がんの人たちや企業のために働きたいと考えたのです」
「治療と仕事の両立に悩む患者とその家族の苦しみは想像を絶するもので、経験した自分たちでないと本当の意味で相手の立場を理解できないかもしれません」と美由紀さんも言い添える。実務的にも、元年金事務所長と元健保組合事務長の夫婦によるアドバイスは心強いことだろう。
2人は書籍執筆にも取りかかり、今年2月、夫婦の闘病記『ガンに負けない!治療・仕事・お金Q&A』(セルバ出版)を出版した。
執筆の理由について晋一さんは「まだ合流したばかりで、大した収入を稼げていないから本を売らないといけない」と笑う一方で、「でも、お金よりも使命感なんです」と続けた。
「自分は本当に職場に恵まれて助かりました。しかし、そうではなくて苦しんでいる人は多いと思います」
今回のご夫婦はかなり特別な事例かもしれないが、定年後、夫婦で仕事のユニットを作るというのはとても参考になる話だ。「年金プラス月額10万円」を自分一人で成し遂げようとするのではなく、夫婦で稼ぎ出すことを検討する。あるいは、夫婦だけでなく子供の力を借りる例もある。収入に加えて、家族の絆が強くなるなら、すばらしいことだろう。
■藤木俊明 副業評論家。自分のペースで働き、適正な報酬と社会とのつながりを得ることで心身の健康を目指す「複業」を推奨。著書に『複業のはじめ方』(同文舘出版)など。